国内先行はSB・LINE・KDDI…脚光の「データクリーンルーム」、情報かけ合わせ安全に
生成人工知能(AI)の登場でデータ活用への期待が高まっている。一方、ウェブサイトの閲覧履歴データで広告配信の仕組みなどに使われるCookie(クッキー)の利用が改正個人情報保護法で制限されるなどの規制強化への対応も急がれる。これらの課題を解決する技術として、プライバシーを守りながら異なる企業間でのデータ共有や分析を円滑化する「データクリーンルーム」が注目されている。(編集委員・斉藤実)
異なる企業のデータをかけ合わせて新たな価値を生み出す―。これをプライバシーや機密性を守りながら実現する手段としてデータクリーンルームが脚光を浴びるが、どのレベルで実現するかが今後のカギだ。
異なる企業が持つデータをかけ合わせた時に、一方から見て、他方のデータの中身や意味が分かってしまってはプライバシーは守れない。また、同種類のデータでもセキュリティーレベルが違えばそれぞれ扱いは異なる。つまり、マーケティングや需要予測などの分析の際には、データの量と種類のかけ算に加え、セキュリティーレベルもかけ合わせねばならない。結果、変数が膨大になり、さばくのは容易ではない。
データクリーンルーム対応で先行する企業は国内ではソフトバンクやLINE、KDDI、メルカリなどの名が挙がる。それぞれに独自の工夫があるとみられるが、さばくデータ量を踏まえると、米巨大IT4社のGAFAをはじめとする大規模プラットフォーマーに一日の長がある。
「“オントロジー”と呼ぶ情報検索技術を使えば、データ形式が違っても多様な目的で使えるようになる。重要なのはデータの持ち方を変えることだ」。こう語るのはデータクリーンルームなどを用いた安心・安全な企業間データ連携の重要性を説くフライウィール(東京都千代田区)の横山直人社長だ。
同社は横山社長を含め社員の3割以上がGAFA出身者で占められている。「GAFA時代は数十億人規模のデータをさばかなければならず、そこで鍛えられた実績が強みだ」(横山社長)。
オントロジーは独自技術とオープンソースを組み合わせたもの。ウェブサイトの巡回検索と同じ手法であり、米グーグルはウェブ検索、米メタは仲間との関係性の分析、米アマゾン・ドット・コムは商品の推奨などに使っている。「オントロジーを使えばデータが正規化されなくても、テキストや画像などの中身を理解し、意味を抜き取って予測に使える」(同)。
フライウィールは4月にKDDIの連結子会社となった。当初は業務提携だったというが、「第三者の立場では扱えるデータが限られる。通信事業者が持つデータは幅広く、深さもあり、身内になればデータ活用が広がる」(同)と判断した。GAFAで培った技術を通信事業者の一員としてどう展開するかが見どころだ。