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KDDIの大規模通信障害から1年、対策は進んだか

KDDIの大規模通信障害から1年、対策は進んだか

高橋社長は安全大会で「22年7月の大規模通信障害を忘れてはならない」と呼びかけた

2022年7月にKDDIが起こした大規模通信障害から1年が過ぎた。同社はこの障害を踏まえ、ネットワーク運用拠点における作業手順・基準の見直しのほか、通信回線にアクセスが集中してつながりにくくなる「輻輳(ふくそう)」からの早期復旧手順の確立などに取り組んできた。昨今は同社以外でも大規模通信障害が頻発しており、業界全体の問題とも言える。IoT(モノのインターネット)時代で通信の重要性が高まる中、通信各社は障害対策の徹底が急務となる。(張谷京子)

KDDI アクセス集中、東西分離で回避

「22年7月の通信障害は社会インフラに多大な影響を与えた障害であり、今後決して起こしてはならない。決してあの日を忘れてはいけない」―。KDDIは23年6月30日、事故を未然に防止するための意識啓発および安全に関する情報や知識の共有の場として「安全大会」を実施。この大会で、高橋誠社長は約3200人の社員を前に、こうメッセージを発信した。

22年の大規模障害は、延べ約3091万人以上の利用者に影響が及んだ。法人向けでは、店舗外の現金自動預払機(ATM)やつながるクルマ向けのサービス、空港スタッフ用無線機やバスのICカードなどで通信がつながりにくい状況が発生した。復旧までは61時間以上を要した。

KDDIは6月に開いた「安全大会」で安心安全な通信サービスの提供を誓った

こうした事態を踏まえ、同社は「作業基準の見直し」「輻輳検知・制御の設計見直し」など六つの再発防止策を実施中だ。22年の大規模通信障害は、通信機器の設定変更時に誤った手順書で作業が行われたなど「手順書の管理が厳格に行われていなかった」(エンジニアリング推進本部運用管理部の水田秀之副部長)ことが原因の一つだった。

このため新たに「手順書管理システム」を導入し、手順書が更新された場合には、再度承認が必要な仕組みに作り替えた。また、ヒューマンエラーの防止に向けては「ヒヤリハット分析システム」を新規開発。作業単位の気付きなどを共有できるようにした。

KDDIは、22年の障害時に問題となった輻輳への対処も行っている。当時は、輻輳が全国に波及することで、障害の影響が大規模化した。同社は輻輳が発生した場合、装置側で通信量の規制をかける対策をとってきたものの、万一の事態に備えて輻輳検知・制御の設計を見直し。東日本と西日本に分離して構成し直し、輻輳による影響が全国に波及しないようにした。

今後は人工知能(AI)による障害検知の導入も検討。AI機能を活用して、トラフィック(通信量)データなどの傾向を学習・予測。実測値と予測値を比べて「いつもと違うトラフィックの傾向を検知する」(同)ことにより、高度な障害検知の仕組みを構築しようとしている。障害検知から復旧対処まで一連のプロセスの自動実行を目指す。

KDDIは23年3月期―25年3月期に通信障害対策で500億円規模の投資を実施。AIによる障害検知技術の開発のほか、通信機器をソフトウエアに置き換える「仮想化」技術の導入を前倒しで行うための費用に充てる方針だ。

NTT 故障未然防止に1600億円、「未知のバグ」課題も

大規模通信障害を起こしたのは、KDDIだけではない。NTTグループでは、22年8月にNTT西日本、同12月にNTTドコモ、23年4月にNTT東日本とNTT西で大規模障害が発生した。

東京都港区にある「ドコモネットワークオペレーションセンター」。ドコモのネットワークを常時監視・制御している

NTTは22年のKDDIの大規模障害を受け、想定外の事態が起こることを前提に、故障を未然に防ぐ仕組みや故障範囲を最小限に留める仕組みなどを検討。通信障害対策に22―25年度で1600億円を投じて、サービス提供状況の可視化やAIを活用したオペレーションの自動化などに取り組む計画だ。

ただ、こうした障害対策をいくら講じたとしても、通信設備における「未知のバグ(不具合)」の発生は予測しきれない可能性はある。NTT東・NTT西では4月、通信機器の未知のバグが原因で大規模通信障害が発生。16都道府県で、インターネット接続サービスの最大44万6000回線に影響が及んだ。

SIM1枚で複数回線利用、影響最小限に

このため今後、通信各社は障害の発生を防ぐ努力を行いつつ、大規模障害が発生した場合にその影響を最小化させる取り組みが求められる。例えばドコモ、KDDI、ソフトバンクは1台のスマートフォンで二つの通信回線を利用できる「デュアルSIM」の提供を開始。総務省の有識者会議では、通信障害や災害の発生時に他社の携帯電話回線を利用する「ローミング」導入について検討が進みつつつある。

IoT向けでは、ドコモ傘下のNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が1枚で複数の通信回線を利用できるSIMカード(契約者情報記録カード)を開発したほか、KDDIも同様のサービスを展開している。

通信網は生活や産業を支える公共インフラであり、通信事業者は大規模障害を防ぐ万全の備えが求められる。ただ、IoTやAIなどの普及で通信量の増大が今後も見込まれる中、バックアップ(予備)にどれだけ費用をかけるのかは悩ましい問題だ。

また通信業界では、政府の政策を踏まえて通信料の値下げが進み、主力の個人向け通信事業の業績が伸び悩む。昨今は電気料金の高騰など物価高も課題で、同事業への影響が懸念される。コスト削減は業界共通のテーマと言える。通信各社が連携し、いかに効率的に対策を推し進められるかが重要になりそうだ。

日刊工業新聞 2023年08月11日

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