需要先細りに直面するインターホン国内トップのアイホン、局面打開で成長路線に乗れるか
今年で創業75周年を迎えるアイホン。順調に成長を続け、インターホン業界で国内トップシェアを誇る。だが、今は住宅着工が縮減し、新市場の開拓という課題に直面する。局面打開のカギは海外展開と、コロナ禍以降に急拡大した電子商取引(EC)商品の非対面・非接触での受け取り需要を取り込む新技術・サービスだ。これらの施策によって新たな成長路線に乗れるのか。4月に就任した鈴木富雄社長の経営手腕が問われる。(名古屋・津島はるか)
【注目】現地化推進、世界3極体制に
アイホンは2025年度に売上高を575億円(22年度実績528億円)に引き上げる目標を掲げる中期経営計画を23年度にスタートした。鈴木社長の「会社の進む方向性を共有したい」との思いから、初めて「長期ビジョン」も公表。将来、売上高海外比率を5割程度(22年度は約3割)まで引き上げることをうたった。
ナースコールから、オフィスや工場用のセキュリティーシステムまで手がけるが、やはり主力は住宅用インターホン。特に集合住宅向けは国内シェアが約7割に上る。しかし、人口減少で新設住宅着工戸数は右肩下がり。インターホン需要も先細りする。海外市場に軸足を移すのが成長戦略の核の一つとなる。
その海外市場に「ニーズの深耕ができていない」と危機感を持つ鈴木社長。まず海外拠点の再編に着手する。各拠点を欧州・アフリカ、アジア・オセアニア、北米・南米の3極体制に構成し直し、各エリアごとに機能を充実。おのおのが販売のほか、品質保証や製品開発もできる体制を整え、現地のニーズに応える製品づくりで海外市場の伸長に挑む。
製品開発のあり方にもメスを入れている。創業以来、同社は呼び出しだけのシンプルな製品から、通話機能付き、モニター付きと、時代に合わせたさまざまなインターホンを生み出した。しかし、作った製品を売りきるだけの時代は終わった。近年増えたスマートフォンと連携する製品などでは、据え付けから10―15年のライフサイクルの間にもソフトウエアのアップデートが必要だ。
そのため、今では開発の比重がハードウエアよりソフトの方が大きいが、元々強いハード設計に比べ、後から加わったソフト設計は外注が多く「ノウハウが蓄積しない」(鈴木社長)。そこで内製化を模索。23年1月にソフト開発を手がけるテシオテクノロジ(名古屋市中村区)を買収した。中計では25年度までに150億円以上を成長投資に費やす計画。M&A(合併・買収)にも前向きだ。
M&Aにまで踏み込み、ソフトの開発力強化にまい進する。その狙いは製品のアップデート対応にとどまらない。インターホンの可能性を、新たな社会課題の解決手段へと広げる構想の一環だ。
【展開】オートロック解除、再配達減らす
アイホンが強みとする集合住宅用の売り上げは全体の約4割を占める。その付加価値を高めて競争力を上げ、集合住宅用で約7割の国内シェアのさらなる向上を狙う。これが成長戦略のもう一つの核となる。
その付加価値とは、宅配業界が抱えるラストワンマイル(目的地までの最終区間)の障壁の解消だ。
コロナ禍でEC利用と非対面・非接触での商品の受け取り需要は急増した。宅配ボックスなどの普及が進む一方、商品を運ぶ宅配業者のラストワンマイルを遮るのがオートロックだ。オートロック付き集合住宅では宅配ボックスの空きがないことや、共用部への置き配が防犯上難しいことなどの理由から、再配達を避けられず、宅配業界の重荷となっている。
この社会課題の解決に挑戦したのが、荷物認証宅配システム「パビット」だ。21年に宅配ボックスのソリューションを提供するPacPort(パックポート、東京都千代田区)と資本・業務提携し、共同開発した。
訪問する宅配業者と住民の間の唯一のコミュニケーションツールであるインターホンに、荷物の伝票番号を解除キーとする機能を付加。これでオートロックを解除し、部屋の前に荷物を置けるため、再配達を減らせる。荷物の伝票番号でのみ、オートロックの解除ができるので宅配業者になりすました人物の侵入を防げる。セキュリティー対策としての役割も大きい。
ただ、この技術も採用する宅配事業者が増えないことには普及と課題解決につながらない。既に分譲マンション向けの新製品にはこの機能を搭載して出荷しているが、マンションの管理事業者が機能の採用を決めないことには使えない。現在はアイホンが両者の間に入り、パビット利用を働きかけている。
ただ集合住宅用インターホンの更新推奨年数は15年。更新時に併せてパビットの導入を促したり、減っていく住宅の新設時の採用を待ったりでは普及スピードは上がらない。
そこで既設のインターホンにパビットの機能を追加できるデバイス「パビットライト」を開発した。7月に首都圏の物件を対象にパビットライトを1000台無償で設置するキャンペーンを開始。社会実装を加速させる。
今後は宅食やネットスーパーなどに連携相手を広げる考え。インターホンを住宅設備の一種から、社会課題解決の一助となるインフラの地位にまで引き上げ、国内事業をより盤石にする構えだ。