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工場の環境管理で法令違反や不適正事案はなぜ起こる?ケーススタディに学ぶ

大岡健三氏「企業の環境対策は本社と工場とで二分化している」

―工場の環境管理における法令違反や不適正事案を取材し、多くの事例を掲載しています。

「いま、企業の環境対策は本社と工場とで二分化している。工場側は排水や廃棄物、化学物質を適切に処理しないと法令違反に問われる。現場は重責を担っているにもかかわらずコストが優先されて人員を削られている。疲弊した現場ではデータの書き換えが起きる。品質や安全に関連した検査不正も同じ図式だ。企業はSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)を掲げるが、うわべだけの部分があり、環境管理を支える現場の目線で伝えたかった」

―確かに本社は“サステナビリティー経営”の旗を振って華やかですが、現場で法令違反が起きると企業の信頼が失墜します。

「現場は厳しい状況に置かれている。トラブルが起きて本社に伝えても経営陣から行政への報告を拒まれ、社外に明るみに出た後は現場に責任を押しつけられることがある。現場をおろそかにしたにもかかわらず、責任を負いたくないのが経営の本音だ。年々、法規制も厳しくなっており現場は追い付くのも大変になっている」

―隠蔽(いんぺい)のような悪質事案以外にも、配管の取り違いなど単純ミスとも思える事例も紹介しています。

「担当者が入れ替わり、配管に何が流れているのか分からなくなった工場がある。操業から時間が経過しても、浄化設備は当初のままで処理能力が不十分なケースもある。改修を繰り返した設備は詳細が分からなくなり、本社は新設の予算をとってくれない。引き継ぎの問題や老朽化など、しわ寄せが現場の負担となっている」

―廃水をめぐって住民と工場が紛争になり、負傷者や逮捕者が出た事件も取り上げていました。半世紀前の日本の出来事だと思うとショッキングでした。

「日本では公害がなくなったと思われており、本社の環境担当者も汚染の深刻さを知らないのではないか。大企業の工場でも、排水や廃棄物の法律を読んでいない担当者がいる。いま、どの企業も環境汚染の当事者になってもおかしくない」

―巨大テーマパークの排水や化学物質排出管理はメディアなどで紹介された記憶がありません。

「法令違反や不適切事案の記事ばかりでは暗い気持ちになると思い、しっかりと取り組んでいる事例として紹介した。他にも生物多様性や気候変動の解説を入れて幅広い内容にした。サステナビリティーに興味がある学生にも読んでもらい、現場での環境管理の重要性を知ってほしい」

―環境事件の取材は拒否されませんか。

「依頼してもNGになることが少なくない。工場担当者の目線となり、現場の苦労や課題を社会に理解してもらうために記事にしたいと伝えている。自治体職員もつらい経験をしている。法律がない数十年前、住民から苦情が寄せられても企業に指導ができずに板挟みになる職員がいた。法律を作った人の功績が称えられるが、自治体職員の努力も報われてほしい」(編集委員・松木喬)

<著者略歴>
大岡 健三(おおおか・けんぞう)
早稲田大学卒業。茨城大学大学院宇宙地球システム科学専攻単位取得満期退学(博士後期課程)。外資企業AIG東京本社環境保険室長 NY, Wall Street勤務経験、商品開発(新種保険部)部長、Specialty Line部長。汚泥処理会社のサラリーマン社長を経て、(一社)産業環境管理協会 出版・研修センター所長、月刊『環境管理』編集長(2014~2022)。早大、茨大の非常勤講師を経て、現在、法政大学、敬愛大学の非常勤講師、環境コンサルタント。
専門:環境地質学、環境科学、廃棄物コンサルタント
主な著書:『わかりやすい製造物責任の知識 改訂増補版』オーム社
『取説マニュアルのつくり方―訴えられないためのポイントを完全チェック』オーム社
『土壌汚染リスクと不動産評価の実務』共著、プログレス社

<書籍紹介>
書名:ケーススタディで学ぶ 環境管理の基礎知識
著者名:大岡健三
判型:A5判
総頁数:264頁
税込み価格:2,970円

<販売サイト>
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Nikkan BookStore 

日刊工業新聞 2023年月7月24日

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