日本初「単回使用注射器」生み出したテルモが事業成長を加速する新領域
テルモは新領域の事業成長を加速する。同社は日本初の単回使用注射器や輸血用の血液バッグなどを生み出した。そうして培ってきた技術を生かし、時代のニーズに合ったビジネスを開拓する。具体的には原料血漿(けっしょう)や受託製造(CDMO)がターゲットとなる。売上高の半分以上を占める主力の事業領域「心臓血管カンパニー」は、米国を中心に今後も拡大が期待できる。さらに新領域を伸ばし、一段と高い成長を目指す。(安川結野)
【注目】先進的領域で海外勢に挑む
テルモは「心臓血管カンパニー」、「メディカルケアソリューションズカンパニー」、「血液・細胞テクノロジーカンパニー」の3領域で事業を展開し、国内の医療機器メーカーでは売上高で第2位のポジションにある。堅調な業績でテルモの成長を支えるのは心臓や脳血管領域などで製品を展開する心臓血管カンパニーだ。
一方で医療機器の世界市場においては、海外勢が優勢だ。「医療機器メーカーは(取り扱う製品の種類が多い)雑種性が高い業界。ただ、そうはいっても先進的な領域で強みを持つ米国企業が、医療機器業界の顔として存在感が大きい」と佐藤慎次郎社長は医療機器業界について説明する。
テルモのライバルは、アイルランドのメドトロニックや米国のボストン・サイエンティフィックなど海外大手だ。心不全や不整脈治療に用いるペースメーカーなどテルモが手がけない製品も扱っており、単純比較はできないが、海外大手の心血管領域と、テルモの心臓血管カンパニーの事業規模を比べると3―4倍の差がある。
海外勢が存在感を示す医療機器市場だが、テルモは2026年度までの経営戦略の中で心臓血管カンパニーの継続的な成長を掲げる。22年度の同事業の売上高は4806億円で、26年度までの売上高成長率は1ケタ後半を想定する。特に、治療デバイスとカテーテルを病変部まで届けるためのアクセスデバイスを併せて、21年度比約1450億円増を目指す計画だ。
海外の強豪がひしめく医療機器市場において、テルモの心臓血管カンパニーが主力事業として成長してきたのは、海外大手メーカーが優先度を下げてきた分野で特徴ある製品を市場投入し、直接対決を回避する戦略にある。一方で、佐藤社長は「今の戦略では成長スピードが追いつかない。脳血管治療デバイスや大動脈ステントグラフといった先進的な領域でも製品を展開する」と強調する。長期的な成長を見据え、海外勢が注力する領域でも製品ラインアップの強化を図る。胸部大動脈治療用のフローズンエレファントトランク「ソラフレックスハイブリッド」を22年に米国市場へ投入したほか、日本でシェアを伸ばす薬剤溶出型冠動脈ステント「ナゴミ」も将来的には米国市場への参入を目指す。
【展開】原料血漿採取システム投入
テルモの売上高のうち心臓血管カンパニーは6割弱を占め、成長性も高い。一方で、佐藤社長は「企業のポートフォリオバランスを考えると、次の成長セグメントを仕込む必要がある」と強調する。主力事業の強化を進めつつ新規ビジネスを発展させ、26年度までに他領域の売上高の割合を高めていく戦略だ。
原料血漿市場は約1000億円で、年平均成長率は8―10%と成長性が高い。背景には製薬企業が免疫疾患や希少疾患などの血漿分画製剤の開発や生産を進めており、その原料となる血液の需要が高まっていることがある。原料血漿市場の成長に伴い、より安全で効率的に原料血漿を採取できるシステムの需要も伸びる見込み。テルモはリカを軸にパートナーを増やして市場ニーズを獲得し事業成長につなげる。
さらに、メディカルケアソリューションズカンパニーにおける受託製造(CDMO)事業の強化も進める。医薬品や原薬製造などにおいてCDMO事業を展開する企業が多い中、テルモは薬剤に適したデバイスの開発や製造を手がける。協和キリンと共同開発し、22年12月に発売した「ジーラスタ皮下注3・6ミリグラムボディーポッド」は、患者の体に装着することで自動的に薬剤が投与されるデバイスだ。患者は通院の負担がなくなる。佐藤社長は「医療機器市場は分散性が高く、1000億円を超えるようなまとまった市場がいくつもあるわけではない。こうした中で、医療機器の3―4倍といわれる医薬品市場のニーズを取り込むことが、自社の成長につながる」と説明する。
心臓血管カンパニーは市場も事業規模も大きいが、一方でライバルも多い。こうした市場で成長してきたテルモは、一方で一つの事業への依存度が高くなったといえる。次の成長につなげるための方針として、新たな市場に乗り出しつつも、強みの技術を中心に置いたビジネスを展開する。血液製剤や医薬品投与デバイスの生産は成熟した事業だが、その技術を活用して原料血漿の採取やCDMOといった時代に合ったビジネスに転換することで、成長性や収益性の向上を目指す。