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リコー・東芝テックが部門統合…再編必至・複合機メーカーはどう生き残るか

リコー・東芝テックが部門統合…再編必至・複合機メーカーはどう生き残るか

リコーと東芝テックの複合機の開発・生産部門統合に関する会見。右から大山晃リコー社長、山下良則リコー会長、錦織弘信東芝テック社長(5月19日)

ペーパーレス進み市場縮小傾向

日本企業が世界シェアの8割を占める複合機業界。ペーパーレス化で市場が縮小傾向にある中、リコー東芝テックが開発・生産部門の統合を決めた。規模の経済を働かせコスト競争力を高め、需要縮小を乗り切る狙いだ。今後も印刷量は年に数%ずつ減少する見通し。テレワークが浸透するなど働き方が変化し、複合機の利用環境はコロナ禍前には戻らないとみられるからだ。複合機メーカーはどう生き残るのか。シェアの低い下位企業の動向に視線が集まる。(高島里沙、編集委員・安藤光恵、京都・小野太雅)

コロナ禍は日本人の働き方を変え、デジタル変革(DX)が進むきっかけとなった。ペーパーレス化が一段と進み、オフィスでの印刷需要の減少はコロナ禍前より勢いを増している。リコーと東芝テックによる複合機の開発・生産部門の統合は、こうした状況への危機感の表れとも言える。

2社は2024年4―6月に共同出資会社を設立する。出資比率はリコーが85%で東芝テックが15%だ。開発・生産部門の統合によって、A3レーザー複合機の世界シェアは、トップのキヤノンを抑えて20%超となる。その規模の優位性を生かして共通エンジンを開発することでコスト競争力を高める狙いがある。複合機のエンジンは共通化するが、2社の販売体制はこれまで通り。リコーはオフィスに、東芝テックは流通・製造・小売り業の現場に強みを持ち、各社の独自ルートでの販売を続ける。

A3レーザー複合機のシェア(2022年)

今回の2社の動きを他社はどのように見ているか。A3レーザー複合機でトップシェアを誇るキヤノンは冷静だ。同社幹部は「『脅威ではない』とは言わないが、手を組むことで、具体的にどのようなメリットがあるか見えない」と語る。ある程度の規模のシェアを持つ大手メーカーにはそこまでの危機感がないとも言え、リコーと東芝テックの部門統合は「東芝テックは規模が小さく研究開発負担が重い。そこで規模の大きいリコーを頼った」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリスト)との側面がある。

東芝テックの主力事業は、販売時点情報管理(POS)システムで、23年3月期の売上高に占めるPOS関連事業の割合は約6割に上る。一方、複合機などを取り扱うワークプレイスソリューション事業は約4割。コロナ禍による販売不振などから、同事業は21年3月期に55億円の営業赤字を計上。その後は黒字転換を果たし、23年3月期は69億円の営業黒字だった。

ただ今後のペーパーレス化は避けられない中、戦略転換の必要に迫られていた。また「主力のPOS事業に資源を集中させたいとの狙いもあっただろう」(小宮シニアアナリスト)。こうした状況下でリコーとの部門統合に動いた。

下位メーカー、M&Aも選択肢

今後、業界はどう動くのか。ある証券アナリストは「(リコー、東芝テック以外の)他メーカーも考えなければならない状況にはなっているはず。こうした(提携などの)動きが加速する可能性は高い」と予測する。業界で東芝テックと同様に3位グループに位置付けられるシャープ京セラドキュメントソリューションズ(大阪市中央区)の動向が焦点になる。

複写機・複合機の年間累計出荷実績

シャープは、76カ国に135の主要拠点を構え、50万社以上に納入する。国内のコンビニエンスストア向けでは約3万台を全国に設置する。河村哲治執行役員は「既存事業での最大の財産は顧客接点や販路」と強調する。複合機をコピー機やパソコンとともにスマートオフィス事業を支える存在と位置付ける。印刷需要の減少という逆風はあるものの、引き続き顧客基盤と事業機会の拡大のため戦略製品の開発に取り組んでいく考え。

京セラドキュメントソリューションズの複合機事業の23年3月期売上高は前期比18・6%増の約4349億円で約9割を海外が占める。日本国内では一部のコンビニ向けで高いシェアを持つ。同社の製品の強みは長寿命である点。その根幹をなすのが主要部品の感光体ドラムだ。独自技術を採用することで耐久性を高め、実質交換不要にしたという。また一般的な感光体ドラムは印刷工程で帯電させる際にマイナス帯電するが、同社の感光体ドラムはプラス帯電するのが特徴だ。

コロナ禍でテレワークが浸透し、オフィスでの複合機の利用環境は変わった(イメージ)

現時点ではシャープ、京セラドキュメントソリューションズの両者が業界再編の当事者になるとの見方は多くはない。シャープは、台湾・鴻海精密工業傘下にあり「業界内で統合などの動きに加わることに対し、アレルギーを持つ企業も多いにある」(小宮シニアアナリスト)との声が上がる。京セラドキュメントソリューションズは、感光体ドラムなどの仕様が独特であり、他企業との生産統合は難しいとの見方がある。

ただ複合機市場は5年、10年先を見通すと15―30%の縮小が予想され生き残りに向けた競争激化は必至。下位メーカーにも開発・生産の効率化、ソリューションサービスの強化などが求められる。その際、M&A(合併・買収)は有力な選択肢となり得る。どう向き合うか、下位メーカーの動向が注目される。

インタビュー・共通エンジンで競争力/リコー社長・大山晃氏

リコーの大山晃社長に東芝テックと部門統合を決めた狙いや今後の展望を聞いた。

―統合の目的は。

「一緒に開発・生産するのは複合機内のエンジンで、プリントやスキャンをするメカの部分だ。共通エンジンにすると量が増えるので、コスト競争力を高められる。量が増えれば増えるほどメリットがある。1社でやるよりも東芝テックと一緒にやるほうが良い環境でビジネスができる。複合機の需要が落ち込む中、共同出資会社の設立によりデジタルサービスの強化も進める。デバイスはデジタルサービスを展開する上でも重要な要素だ」

―共同出資会社の展望は。

「共通エンジンの数量を増やしていくことが、今後の挑戦となる。共通エンジンを使いたいというメーカーが他に出てくれば、条件次第で使ってもらう。共同出資会社には入らずに、売買契約を結ぶという形もあり得る。競争力の高いエンジンになればなるほど、チャンスが出てくるだろう」

―共同出資会社に他社が参画する予定はありますか。

「当社から特に働きかけているわけではなく、何かが決まっているわけでもない。興味があれば、まずは是非、話をさせていただきたい」

―部門統合が業界に与える影響は。

「今回の動きがトリガーとなって一気に物事が進むのかについては、各社個々の事情もあるので何とも言えない。当社としては、業界をけん引するトップランナーとして走り続けるという覚悟を今後も持ち続ける」

日刊工業新聞 2023年月7月11日

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