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電気細菌の割合200倍…物材機構などが微生物を低コストで濃縮

電気細菌の割合200倍…物材機構などが微生物を低コストで濃縮

電気細菌の周囲に黒い磁性粒子が集まっている(電子顕微鏡写真、物材機構提供)

物質・材料研究機構の岡本章玄主幹研究員と海洋研究開発機構の若井暁主任研究員は、環境中に微量で存在する微生物を低コストで濃縮する技術を開発した。微生物表面を磁性粒子付きの高分子ポリマーで覆い、磁石で引き寄せて集める。電気細菌の濃縮に応用すると、微生物発電が起こるまでの時間が通常の数週間から30分になり、電流は約16倍になった。電気細菌で問題になる配管腐食の可能性を検査するのにも利用できると見込む。

まず磁性粒子に分子鎖をつなげ、先端に重金属のオスミウムがある磁性粒子を作製した。次いで微生物膜の表面酵素で特定の有機物を反応させると、重合反応でできたポリマーが微生物を覆う。このポリマーがオスミウムと錯体を形成することで、微生物は磁性粒子をまとう。磁石を近付けると磁性粒子によって微生物が集まり、濃度が上がる仕組みだ。

細胞膜の内外を貫くたんぱく質によって電子を流し、自身のエネルギー代謝を行う電気細菌にこれを応用した。電気細菌は、廃水処理と発電を同時に行うバイオプロセスへの応用など環境・エネルギー分野で近年、注目されている。

通常は電気細菌の濃度が低いため、廃水などに作用させても発電が始まるまで数週間かかる。今回の手法で濃縮すると、電気細菌の割合が200倍になり、30分で発電を開始。生じた電流は約16倍になった。

電気細菌は石油パイプラインや処理水の貯蔵施設などにおける金属腐食への影響が問題になる。硫化水素を発生する従来の腐食菌と異なる仕組みを研究する上でも、新手法による電気細菌の濃縮は期待されそうだ。

日刊工業新聞 2023年06月07日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
この技術は、環境中で微量のため検出できなかった微生物を、濃縮する手法だ。「研究の手法開発」は、目的の研究を進める上での困りごと解決として手がけられることが少なくない。が、実現されれば多様な分野の研究に貢献する、その典型例といえるだろう。研究グループが論文化直前の内容を「プレプリントサーバ」で公開したところ、ダウンロードの上位に入ったということが、それを裏付けている。

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