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大学の理工系強化公募、情報系分野拡大57件応募で激戦に

大学の理工系強化公募、情報系分野拡大57件応募で激戦に

情報系支援に対する各大学の期待は大きい(イメージ、電気通信大学の研究室)

文部科学省が進める大学の理工系強化事業の初年度公募が締め切られた。国立大学を含む大学院の情報系分野拡大は、3年間で60件の採択計画に対してすでに57件の応募があった。うち20億円の助成は、5件の枠に14件が申請して激戦だ。一方、私立・公立大学の理工農系学部・学科再編支援は、採択計画数が10年間で250大学と大規模なのが特徴。今回の応募は67件だった。最速で2024年度の開始に向けて、採択案件は7月に発表される。(編集委員・山本佳世子)

文科省は22年度補正予算約3000億円で「大学・高専(高等専門学校)機能強化支援事業」の基金を造成した。同事業は大学改革支援・学位授与機構が運営し、2種類の支援をする。施設・設備整備費が含まれるため、1件当たりの金額が高くなる。

2種類のうち「支援2」は情報系の大学院と関連学部などを有する国公私立の大学と高専が対象だ。10億円もしくは20億円の助成に加え、国立大にとっては臨時的に学部定員増ができる点が魅力だ。

情報系分野はデータサイエンス、半導体、人工知能(AI)など幅広い。「文科省の研究関連局では研究費の支援しかできないが、今回は定員を変えることで人材育成に取り組む」(高等教育局専門教育課)のがポイントだ。大学は事業計画を「国際レベルの人材輩出」「自大学の定員増と他大学参加プログラムを伴う博士人材育成」「地域・産学連携」から選ぶ。応募の内訳は国立大37件、私立大10件、公立大5件、高専5件だった。

一方、成長分野であるデジタル、グリーン領域の理工農系学部・学科への転換を誘導する「支援1」は、私立・公立の大学が対象だ。支援額は最大20億円、計算上は平均10億円弱になる。文系学部からの転換や定員が多い場合などを優遇し、全私立・公立大の3分の1に当たる大学での実現を目指す。

新分野の理系学部の設置においては、施設、校地や教員の資質などが適切かどうか、大学設置・学校法人審議会の審査を受けることになる。文科省は準備段階の支援に1件最大3年間、3000万円を用意し、計画段階から後押しする。学生確保に難がある既存学部における定員減・充足率向上などの方策がセットとなる。

今回の公募ですでに「文系学部のみの私立大学が理系学部の設置に挑戦する事例の応募が来ている」(同)という。18歳人口急減の中で同事業は20年弱をかけ、日本で中心的な存在である文系私立大を情報やデータサイエンス、環境などの学部設置で生まれ変わらせることができるか、注目される。

日刊工業新聞 2023年05月30日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
国として重要な分野の後押しは、国立大学の交付金内での改革支援などあったが、私立・公立の教育で転換では初めてだ。数年度にわたって支援ができる基金の造成も、科学技術系にはあったが高等教育局では、これまでなかった。準備3年間+新入生が社会人になる完成年度までの4年間、を含めて、支援期間は最長10年間だ。この形の支援で、公募を2023年度まで10年間、行うため、文科省としては約20年にわたる長期事業となる。18歳人口急減の中で、私立大の公立大転換、短大の停止や四大化(4年制の大学への転換)、女子大の停止や共学化といった、各種の大学の生き残り策と連動しながら、進むことになるだろう。腰を据えて見つめていく必要がありそうだ。

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