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マンション建築現場「自動掃除ロボット」の“理想形”、「HIPPO」で追求したこと

マンション建築現場「自動掃除ロボット」の“理想形”、「HIPPO」で追求したこと

HIPPOは取っ手も備え、持ち運びのしやすさにも配慮した

長谷工コーポレーションはマンションの建築現場で、自動清掃ロボットの本格運用に乗り出す。スマートロボティクス(東京都千代田区)と開発した試作機「HRXスイーパーS HIPPO」の検証を近く完了。ハード・ソフト両面で集約した課題の解消を進め、10台程度を配備する計画だ。技術研究所先端技術研究室の林徹室長は「電動工具のような扱いやすさにこだわった」と自信をみせる。(堀田創平)

HIPPOは幅63センチ×高さ39センチ×奥行き103センチメートルで、重さは28キログラム。超音波センサーを備え、スラブ(構造床)上のコンクリート片やクギ、粉じん、木片といった廃棄物をブラシで掃き取って捕集する。約70平方メートルの住戸であれば、1時間で約90%を自動で清掃できる。建設現場に普及する吸引式の清掃ロボットに比べ、フィルターの目詰まりが発生しないのが強みだ。

現在、都内の建設現場で稼働するHIPPOは5台。いずれもコンクリートの打設を終えて内装に移る段階の現場で、2022年秋から検証してきた。林室長は「基本設計を見直すようなトラブルは出ていない。あとはセンサーの干渉や、ブラシがすぐ摩耗する問題などを解消すれば大丈夫」と胸をなで下ろす。早期に量産型を仕上げ、夏までに本格運用を始める方針を示す。

HIPPOはマンションの建設現場で、廃棄物をブラシで掃き取って捕集する

現場作業の機械化・ロボット化にあたり、重視したのが「人手が不足する中、それぞれが専門能力を発揮できる環境を整えること」(林室長)だ。そこで設計・施工部門でアンケートを実施。資材を運ぶ「荷揚げ」や「墨出し」と並び、対策を求める声が多かったのが「清掃」だった。工事を止めて定期的に行う「一斉清掃」の負担と時間を軽減・短縮する効果を見込む。

林室長が「ほぼ最終形」とする現行のHIPPOは、開発当初からすると6代目だ。廃棄物にはブロックに加え、糸や針金など絡まりやすいものも多い。このため前方の“ほうき”で掃き取り、後方の“ちりとり”で確実に回収する最適な仕様を追求。周囲に傷が付きにくい丸みのあるボディーやゴミパック替わりの土のう袋など、現場ならではの発想も生かされている。

もうひとつ磨き抜いたのが、28キログラムという重量だ。HIPPOは機能を絞り込み、単純な構造とすることで開発コストを抑制。併せて軽量化も実現し、少ない機能ゆえに生じる運搬の負担軽減にもこぎ着けた。ただマンションの建設現場はオフィスなどに比べ段差が多く、安定した走行には適度な重さも必要となる。現行機は設計の見直しを重ねた末に確立した理想形だ。

今後は、バルコニーを排水する溝を対象とした清掃ロボットの開発も検討する。HIPPOと同じく必要最低限の機能にとどめることで、開発コストと重量を抑制。事前の地図作成など面倒な作業をせずに、現場でスイッチを押すだけで操作できる手軽さに重きを置く。また、荷揚げ作業のロボット化も模索。23年度中にも、対応可能な機種の選定に取りかかる。

日刊工業新聞 2023年04月04日

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