仮想空間に現実再現するデジタルツイン、活用のカギになる日本発技術の正体
4月29、30の両日に群馬・高崎で開かれた先進7カ国(G7)デジタル・技術相会合では、新興技術の適切な利用に向けて「イノベーションの機会の活用」などの5原則で合意した。人工知能(AI)をはじめとする新興技術で、重要テーマの一つに3次元(3D)空間情報の活用がある。併催の「デジタル技術展」は、その可能性の広がりを感じさせた。(群馬支局長・藤竿裕謙)
現実の空間を仮想空間に再現するデジタルツイン。活用のキーとなるのが、日本発の空間ID(識別符号)だ。実空間を立方体(ボクセル)で分割し、一つひとつにIDを割り当て、測位基準が異なる場合でも一意に位置を特定できる。ボクセルに静的・動的情報をひも付けることで、新たなサービスや管理手法を開発できる。デジタル庁と経済産業省が主導し、規格の標準化とガイドライン策定に取り組んでいる。
NTTデータと三菱電機は、ゴミ箱型の自律走行搬送ロボット(AMR)に温湿度センサーを搭載し、空間IDにこの情報と時刻をひも付けた。来館者数や外気温などの情報を追加し、AIによる空調制御の最適化を実証した。AMRが走行のためにデータを利用するだけではなく、施設管理のためのデータを収集するユースケースの一例を示した。
NTTデータの稲川竜一ソーシャルイノベーション事業部ソリューション開発担当部長は「AMRでデータを“ついで取り”することで、複数のセンサーを設置したり、配線したりするコストを抑えられる」とする。
アースブレイン(東京都港区)とNTTインフラネット(同中央区)は、建設機械の遠隔操作システムを展示した。アースブレインの伊吹憲哉デジタルレイヤ開発グループエンジニアは「空間IDとマシンガイダンス機能の連携で、埋設管工事などを効率化できる」と強調する。
PwCコンサルティング(同千代田区)は、約100キロメートル離れた東京と高崎の2拠点を空間IDで統合させた仮想空間を創出した。来場者は仮想現実(VR)ゴーグルを着け、東京の拠点を走るモビリティーと高崎の展示ブースを飛ぶ飛行ロボット(ドローン)がぶつからずに移動する空間を共有した。
佐々木智広ディレクターは「空間IDはいろいろなデータを掛け合わせて新しい価値を創出するためのハブ」と強調する。空間ID技術は黎明(れいめい)期だが、さまざまな領域の情報活用を高度化する可能性を秘める。官民共創による社会実装が待たれる。