感染症流行の兆し検知する、分析用ヒト型ロボットの貢献
動作微調整、RBIが協力
AdvanSentinel(アドバンセンチネル、大阪市中央区、古賀正敏社長)は、下水サンプルから感染症の病原体を検出して流行の兆しを検知する下水疫学サービスの分析作業で、ロボティック・バイオロジー・インスティテュート(RBI、東京都江東区)と連携している。RBIの分析用ヒト型ロボット「まほろ」を使うことで、高精度を維持しつつ処理件数をこなす効率性を確保。将来の需要拡大に備えている。(編集委員・安藤光恵)
アドバンセンチネルは下水疫学サービスの日本での普及を目指し、塩野義製薬と島津製作所が折半出資して設立。流行前の感染症を下水中の病原体の分析により検知し、自治体や医療機関へ情報提供を行い事前の対策を取りやすくしている。
酵素を使ってサンプルを濃縮することで、わずかな病原体でも検出する独自の「COPMAN法」を北海道大学と開発。現在、新型コロナウイルスとインフルエンザに対応している。この手法による分析をヒトと同様にロボットが担っている。
今井雅之副社長は「掛け算で分析数が増えたとき、ますますロボットが力を発揮する」と期待をかける。今後、ノロウイルスや呼吸器疾患を起こすRSウイルス、薬剤耐性菌などに対応し、1度のサンプル取得でさまざまな病原体を検出できるようにする方針。また、自治体だけでなくドラッグストアや航空・船舶、観光産業、保険業界など民間向けのサービス開発も視野に入れており、必要な分析は増加していく。
将来、下水疫学が普及した際は政令指定都市だけでも100を超える下水処理場で週2回以上の検査をすることになり、専門人材の確保や作業負担の増加が課題となる。アドバンセンチネルは、まほろの分析能力への高い評価に注目し、導入を決めた。
まほろは1度に60サンプルを処理し、24時間の稼働が可能。最大で週300サンプルを分析できる。岩本遼研究開発部部長は「再現性が高く、人の手で発生するばらつきを抑え同条件で結果を出せる」ことも利点とする。
COPMAN法が自動化しやすい手法のため、導入はスムーズだった。複雑な動きやランダムな要素を排除する難しさから自動化しにくい遠心分離工程が、通常は5―10回必要だが同手法は1回で終わる。
また、単なる自動化ではなくヒト型ロボットを使ったことが既存装置からの置き換えやすさに拍車をかけた。2本の腕があるため「人が確立した手順をそのまま移管できた」(岩本部長)。自動化のための条件検討や新たな器具の使用、手順の構築が不要だった。安定してサンプルを扱うための腕の高さといった動作や温度など環境条件の微調整をRBIの協力で進め、約2カ月で稼働した。
今井副社長は「下水疫学が社会基盤として重要だとRBIに共感してもらえた」とスムーズな導入の実現を振り返る。その役目を果たすため「分析能力の頭打ちがあってはならない」と気を引き締める。需要が増えたときには、まほろの増設も視野に入れる。