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メタマテリアル研究で見えてきた“スーパー量子コンピューター”の糸口

メタマテリアル研究で見えてきた“スーパー量子コンピューター”の糸口

新しい材料開発ではサンプルを測定し、特性の評価が重要

光を自在に操る人工光制御材料の開発を目指すメタマテリアル研究が活発化している。名古屋市立大学の松本貴裕教授は、光技術とナノテクノロジー材料の組み合わせによる新技術の創出を通じて社会への貢献を目指している。脱コロナ禍がテーマになる光殺菌技術のほか、長年取り組んできたシリコンナノ結晶研究からは“スーパー量子コンピューター”の糸口も見えてきた。光とナノテクの可能性が広がる。(名古屋・鈴木俊彦)

病原性ウイルス、細菌の不活化、殺菌では深紫外線(UVC)が有効だ。ただし、法律で規制された数値以上のUVCを浴びると、皮膚がんなどになることが知られている。

近年、波長235ナノメートル(ナノは10億分の1)以下のUVCは人体に悪影響がないことから注目を集めている。しかし高額で、交流の高電圧を利用するためUVCランプ寿命は長いもので3000時間程度が一般的だ。

「殺菌効果を維持しながら低コストで、高耐久性を実現したい」(松本教授)と着目したのがUVCを発光させるナノ材料蛍光体だ。最適調合した材料を欠陥を抑えて作製することで、220ナノ―230ナノメートルの波長を効率よく発する蛍光体の開発に成功した。

人体に安全なレベルのUVCを空間全体に照射できれば、マスクなしの日常に戻るきっかけになりそうだ。今後、この蛍光体を含有するポータブルUVCランプを使った殺菌実験に進みたいという。

UVC殺菌について、松本教授は興味深い実験結果を得ている。UVC照射線量が同じでも、強い照射で短時間殺菌した場合に比べて、弱い照射で長時間殺菌する方が殺菌効率が1ケタ以上高いことを確認した。この知見は居住空間でのUVC殺菌技術に生かせると注目を集めている。

さらにUVCと比べて安全・簡便さで優位性を期待するのが可視パルス光を利用した殺菌技術だ。人体に安全な可視光は、照射するだけでは殺菌効果がない。実証ではナノ秒程度の瞬間的な高輝度可視光のフラッシュで容易に高温殺菌できることを確認。一方で、人体細胞はほとんど温度上昇しないという。

光を自在に駆使した新しい技術、材料の開発に力が入る(松本教授)

レーザー照射による共鳴励起(光加熱)という手法を取り込んだ技術で、現行の発光ダイオード(LED)技術を活用できる。「LED照明と殺菌機能を一体化した照明器具などに展開したい」(同)と実用化を探る。

ナノ材料研究からは、新しい概念に基づく量子コンピューティング技術の可能性も見いだしている。ナノ結晶シリコン表面に結合した水素原子の量子もつれ状態の発見だ。

水素の量子もつれ状態は固体中で観測された例はなく、発見した量子もつれ状態は常温でも安定した状態を維持。シリコン結晶表面に膨大な数の量子ビットを形成すれば、従来考案されている量子コンピューティング技術を大幅にしのぐ計算速度を実現する“スーパー量子コンピューター”も可能と見通す。

メタマテリアルは革新的な機能を創出し、産業の幅広い分野で利用が期待される。「光を創成する時代から自由自在に駆使する時代に移りつつある」(同)とメタマテリアル時代の到来を歓迎する。

日刊工業新聞 2023年02月20日

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