「このままでは絶対まずい」…配送ロボット開発するKCCS社長の原体験
「このままでは絶対にまずい」―。京セラコミュニケーションシステム(KCCS、京都市伏見区)の配送ロボット開発は黒瀬善仁社長のこんな一言で始まった。黒瀬社長が山陰の実家に帰ると、吹雪の中を電動車いすが走る姿があった。
KCCSは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業で北海道石狩市を舞台に中型配送ロボを開発している。オールドニュータウンにおいて、コンビニエンスストアを展開するセコマ(札幌市中央区)やヤマト運輸と配送ロボの実証を重ねている。外に出られない日は無理して人が買い物に行くのではなく、荷物や商品が家に来るシステムの実現を目指す。
機体は自動走行の電動ミニカーだ。荷物を入れるロッカーを20個備え、コンビニのように保冷保温のショーケースを搭載して移動販売もできる。最高時速15キロメートルで自転車と同じ速度で車道を走る。吉田洋事業開発・シニアディレクターは「配送ロボは郊外や工業団地を走る。移動距離が長いため中型中速で配送効率を高める」と説明する。4月施行の改正道路交通法は時速6キロメートルで歩道を走る移動ロボを想定する。
配送ロボが車道を走る利点は多い。車速と広さを確保でき、人が歩いていない場所を走ることができる。さらに車道は歩道よりも路面が整備されていることが多い。滑らかな路面はロボットのセンシングや遠隔監視が安定しやすい。一方で長く路上に駐車するのは難しくなる。吉田ディレクターは「タイミングよく相手に受け渡せるかどうかがカギになる」と説明する。
受け取り相手の不在は、人と人との受け渡しでも課題だ。相手のスマートフォンに通知するなどの機能が必要になる。吉田ディレクターは「移動販売では『音楽を流そう』『積載率を高めるために物販と配送を兼ねよう』などとアイデアが出ている」と説明する。
こうしたサービス設計においてはヤマト運輸、セコマと知恵を絞る。例えば僻地に荷物を届ける場合は複数の物流事業者から配送を請け負う。昼前の配達ではお弁当を一緒に運ぶ提案をするなど、小売りや物流の専門家とビジネスモデルを開発する。
村上宙也副課長は「地域からの期待が大きい。医薬品や生鮮食品などのライフラインを支えたい」という。ただ配送事業として計算すると採算性にはまだまだ課題がある。人が運んでも採算が厳しい地域でビジネスを組み立てるのだから当然だ。それでも吉田ディレクターは「配送ロボが走る風景は、近い未来これが当たり前になると確信できる」という。配送ロボはたくさんの期待を背負って雪国を走る。