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植物共生菌の機能を開拓する産総研の挑戦

地球上には動物や植物の総量をしのぐ微生物がおり、さまざまな物質の反応に関与して、地球上の物質の循環や分布に大きな影響を与えている。微生物の働きを十分に理解し、環境上の影響を正確に評価することは、生態工学技術を開発する上で重要である。しかし、二酸化炭素(CO2)以外で直接的・間接的に温室効果をもつ水素や一酸化炭素(CO)、メタンが、微生物によって大気圏から消費される過程については、あまり知見がない。

近年になって、大気中に希薄にしか存在しないこれらのガスを好気的環境で取り込む微生物やその代謝に関わる酵素が相次いで発見され、これらが地球化学的循環の主要な役割を果たしている可能性が示唆された。従来の研究は土壌や海洋表層が主な研究対象であり、同じく好気的環境の植物圏に生息する微生物が果たす役割に関する視点が欠落していた。

植物微生物群による大気水素の地球化学的循環への寄与

産業技術総合研究所(産総研)では、大気中のさまざまなガス成分が植生地で多量に取り込まれる現象から、植物に生息する微生物が多様な温室効果ガス(GHG)の消費に関与していると考えた。その仮説を検証するため、大気中の水素に着目した。分子生態解析やガス分析などの種々の解析技法を駆使することで、従来の下限よりさらに低濃度の水素を酸化できる酵素遺伝子を持つ植物共生微生物の存在を初めて明らかにした。

大気中の還元性ガスの中で、水素はメタンに次いで多く存在する。燃料電池自動車の普及などで水素の大気への放出が増大すると、大気中のメタン寿命の延伸や成層圏冷却などに伴う温暖化の促進、オゾン層の破壊による地球環境への影響が懸念されるとの議論がある。大気圏の水素の約80%に相当する量は陸地表層で消費されることが観測されており、上述の特異な酵素を持つ微生物の見えない働きが推察される。

現在、微生物を活用した植物バイオ産業の創出を目指し、植物微生物群の培養資源化と新規機能の探索、有用微生物の資材化技術の開発を進めている。植物体内や根圏土壌に存在する微生物の大半は、従来の培養法で増殖しない難培養微生物である。そのため、GHGの利用といった公益的機能や既知の生物間相互作用(植物の成長促進や耐病性誘導など)は、そのポテンシャルの一端に過ぎないと思われる。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「技術戦略研究センターレポート」より、植物微生物群を利用した製品の国際的な市場規模は年成長率10%を超える勢いで拡大するとの予測が紹介されている。植物微生物の潜在的な機能を開拓して、この技術分野の一層の発展に貢献したい。

産総研 生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ 主任研究員 菅野学
宮城県出身。専門は環境微生物学。2007年より産総研入所。以来、環境微生物の未知機能探索と活用技術開発に従事。生物共生や難培養性といった生命現象の原理探求に挑み、バイオ産業の革新につながるシーズ創出を目指す。
日刊工業新聞 2023年01月19日

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