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小さな会社の営業は「売れる仕組みを作る」が正解だった

小さなものづくり企業の営業改革大作戦 #1

2020年にコロナ禍が始まってから早3年。コロナ禍は世界中のあらゆるビジネスに変革をもたらし、私たち製造業のビジネスにも大きな変化が起きているのはご承知の通りだ。
 製造業は完成品メーカーをピラミッドの頂点としたサプライチェーンが構築されていることもあり、従来であれば親事業者からの依頼に対して品質・価格・納期を守って納めていれば、継続して注文が来るのが当然だった。良い製品を作って次の注文を待つという「待ち工場」のスタイルは、経営戦略としてはある意味正解だったといえる。
 一方で自動車業界の部品共通化やEV化の流れをはじめとする市場環境の変化に伴い、「良いものを作っていても次の注文が来ないかもしれない」時代が来ることはコロナ前から予想されてはいた。その流れにコロナ禍が追い打ちをかけ、変化が加速したことを実感している読者も多いのではないか。

しかし中小規模の部品加工メーカーには、未だに社長が顧客対応から設計・現場までを1人で担当している会社が多い。また「営業部」という名前の部署がある会社でも、担当業務は既存客との仕様調整・納期調整・価格調整にとどまるなど、世間一般でいう「営業」とは業務内容がかけ離れた会社も少なくない。最近では顧客から「ウチに頼らなくてもやっていけるように他の仕事探しておいてね」などと言われて途方に暮れている会社もあると聞く。このように差し迫った状況になってから急に「今から営業しなきゃ!」と思い立っても、どこから手をつけていいのか分からない、というのが正直なところだろう。

町工場ならではの「営業」を身につけて生き残れ

さて、世の中には「営業」を語る本が数多く刊行されているが、どの業界でも通用する王道の営業理論やマインドセット、トーク術、プレゼン術の類いは、中小製造業の営業においてはあまり役に立たない。というのも、小さなものづくり企業には専任の営業パーソンを置いている会社がそもそも少なく、営業がいたとしても常に人数不足、人材不足の状況。毎日の仕事を回すのに精一杯で、とても王道理論を一から実践する余裕はない。加えて製造業には独特の商習慣があるため、一般論を実践できないケースも多い。
 そこで、雑誌編集者・フリーライター・装置メーカーの営業ウーマンを経て、現在ものづくりライターとして活動する筆者は、町工場ならではの営業ノウハウをまとめた『小さなものづくり企業の営業改革大作戦』を上梓した。本特集では、製造業の営業の現場で実践して新規顧客、売上を獲得してきた具体的な方法の中から町工場がすぐに取り組める内容を取り上げ、ひとりから始められる「売れる仕組み作り」の記事を連載でお届けする。

頭を下げてお願いする営業はもう古い

読者各位は「営業」についてどんなイメージをお持ちだろうか? 製造業の経営者や従業員の方々に営業のイメージを聞いてみたところ、「強引にモノを売る仕事」「お客さんにひたすら頭を下げてお願いしなければならない」「ノルマが大変そう」「人と話すのが苦手な自分には絶対無理」など、ネガティブなイメージを持つ方が多かった。確かにものづくりに真摯に向き合う町工場で働く人にはコミュニケーションを苦手とする口下手な方が多い印象で、「営業」に拒否反応が出るのも無理はない。しかし「営業」は決して人に頭を下げるだけの仕事ではない。

ではいったん逆の立場、つまり自分が営業を受ける側だったら、と考えてみてほしい。
 今まで自社に新しい設備や製品の導入検討をしているとき、営業パーソンの頭の下げっぷりが決め手になったことはどれくらいあるだろうか? 営業トークの巧さや面談の頻度は? ……などと考えていくと、一つの結論にたどり着く。そう、皆さんがこれまで「営業」だと思い込んでいる「頭を下げる」「お願いする」「強引にモノを売る」というような営業のスタンスは、製造業においてはほとんど役に立たないということだ。

今の時代、どんなに頭を下げても仕事は取れないし、顧客が求めていない仕事やモノは絶対に売れないと考えた方が良い。頭は下げるのではなく、自社の仕事を求める顧客に出会い、気持ちよく発注してもらうために使うべきだ。従来思い込んでいた古くさい営業の概念はここで捨ててしまおう。

兼任でも成果が上がった「売れる仕組み」とは

では、小さなものづくり企業が仕事を獲得していくためにはどうすればいいだろうか。この場合の正解は、売り込む営業をやめて「売れる仕組みを作る営業」に取り組むことだ。それはつまり、仕事の依頼が入ってくるような環境づくりをすること。環境づくりなので、少人数でもコツコツ取り組める準備が8割で、あとの2割はコミュニケーションが苦手でも口下手でも、自社の製品や技術に精通している人なら対応することができる。

ここで筆者が提唱する「ものづくり企業の営業 基本の3ステップ」を紹介したい。この営業のしくみは、トーク力や頭を下げる営業活動を必要としない。

  「自社の製品/技術が誰の役に立つか」を徹底的に考えて、それを必要としている人を見つけて必要な情報提供を行い、営業パーソンが能動的に動くのは選定してもらうときだけ、という営業スタイルだ。
 このスタイルの元になったのは、筆者がメーカー営業時代にひとり営業体制で成果を上げるために「自分が営業に飛び回らなくても注文がやってくる方法」を考え抜いて手間を省いていた営業方法だ。その方法を継続した結果、担当になってわずか1年で大きな営業成果を上げることができた。
これなら制約の多い中小企業でも、できるところから始められる。ぜひ自社に合った項目を選んで、取組みを始めてほしい。
最後に、貴社の営業力の現在地がわかる簡単なチャートを用意してみた。ぜひ試してみてほしい。
【中小製造業向け】営業の現在地確認チャート

【POINT】
小さな会社だからこそ
「売れるようにする」準備をしよう

<著者紹介>
ものづくりライター 新開 潤子
『小さなものづくり企業の営業改革大作戦(日刊工業新聞社)』の著者であるものづくりライター。中小製造業を中心に取材活動を行いながら、「ものづくり企業の商売繁盛を全力で応援するサポーター」として経営計画、営業の仕組み導入などのコンサルティングを行っている。
(オフィス・キートス 代表 https://office-kiitos.biz/

小さな製造業の営業は「売り込む」ではなく「売れる仕組みを作る」が正解だった――激変する経営環境の中で「営業なんてしたことない」「営業マンがいない」というものづくり企業のための、ひとりからできる「営業」の打ち手集。

書名:小さなものづくり企業の営業改革大作戦
著者名:新開潤子
判型:B5判
総頁数:104頁
税込み価格: 2,035円
<販売サイト>
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楽天ブックス

月刊「プレス技術」2022年11月臨時増刊号より一部抜粋、加筆

特集・連載情報

小さなものづくり企業の営業改革大作戦
小さなものづくり企業の営業改革大作戦
製造業の営業の現場で実践して新規顧客、売上を獲得してきた具体的な方法の中から町工場がすぐに取り組める内容を取り上げ、ひとりから始められる「売れる仕組み作り」の記事を連載でお届けする。

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