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「H3」「カイロス」…2023年に打ち上げ計画「国産ロケット初号機」の全容

「H3」「カイロス」…2023年に打ち上げ計画「国産ロケット初号機」の全容

13日に打ち上げ予定の大型基幹ロケット「H3」(JAXA提供)

2023年は国産ロケット初号機の打ち上げが相次ぐ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業は、大型基幹ロケットを約20年ぶりに刷新して開発した「H3」を13日に打ち上げる計画で、今後の日本の宇宙開発を先導する。民間ではスペースワン(東京都港区)の小型ロケット「カイロス」が打ち上げを今夏に控え、高頻度で即応性のある打ち上げ事業の確立を目指す。日本の宇宙輸送が新たな時代を迎えようとしている。(飯田真美子、高島里沙)

JAXA・三菱重工「H3」、民生品活用でコスト半減

H3試験機1号機は13日に種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から打ち上げる。現行の大型基幹ロケット「H2A」が24年度内に打ち上げ予定の同50号機で退役し、H3はその後を引き継ぐ。H3の輸送コストは従来の半額となる約50億円が目標で、民生部品の活用や他のロケットと部品を共用化するなどの工夫をしている。

新たに開発した技術では新型エンジン「LE―9」が目玉だ。高い安全性や燃料の消費低減などを見込めるが、ロケットの心臓であるエンジンを作ることは難しい。実際にLE―9の燃焼実験後にタービンの破断や燃焼室の穴が見つかり、H3の打ち上げが延期になった。

H3に搭載される先進光学衛星「だいち3号」(JAXA提供)

ただ、このつまずきは今後のロケット開発の糧になった。従来、燃焼時にエンジン内部で何が起こっているかを調べる方法がなかった。そこでジェットエンジンの開発で使う測定手法を応用した。これにより燃焼時のデータを得られるようになった。

JAXAの岡田匡史H3プロジェクトマネージャは「技術者が意見を持ちよって考えた」と振り返る。この手法を使えばエンジンの設計を変更しても燃焼時の内部の様子が分かり、他のロケットのエンジン開発にも適用できる。

H3試験機1号機には、先進光学衛星「だいち3号」が搭載される。地球観測衛星「だいち」初号機の後継機で、JAXAでは約10年ぶりの光学衛星となる。JAXAの匂坂雅一だいち3号プロジェクトマネージャは「防災・災害対策だけでなく、だいち3号が撮影した画像を多くの人に使ってほしい」と呼びかける。打ち上げまで2週間を切り、新型のロケットと衛星が宇宙空間に飛び出すまであと少しとなった。

スペースワン「カイロス」、小型でユーザーの選択肢増

国産の大型基幹ロケットは安全性・信頼性が高く、大型衛星の打ち上げにも適した能力を持つ。ただ年に数回しか打ち上げを実施できず、海外より輸送費用が高い。

小型ロケット「カイロス」(イメージ=スペースワン提供)

こうした問題の解決に、キヤノン電子やIHIエアロスペースなどが出資するスペースワン(東京都港区)は小型ロケットを使ったサービスで挑む。ユーザーの小型衛星を契約から12カ月以内、受領から4日以内で宇宙に運ぶ「宇宙宅配便」の事業化を進める。

大型のロケットより柔軟に打ち上げスケジュールを組める小型ロケットの特徴を活かし、20年代半ばにH3の3倍以上となる年20回の打ち上げを目指す。JAXAの山川宏理事長は「民間主導の素晴らしい取り組み。JAXAのロケットとは異なる輸送手段で、ユーザーの選択肢が増える」と強調した。

カイロスに搭載する固体モーターの燃焼試験。JAXA能代ロケット実験場で実施した(JAXA提供)

だが、2月末に予定していたカイロス初号機の打ち上げは今夏に延期。世界的な物流の混乱で、海外からの部品調達が難しくなったためだ。キヤノン電子の酒巻久会長は「宇宙ビジネスの確立には実績が重要。物資調達でも新参者より古株を優先する傾向にある」と深刻に話す。

JAXAの能代ロケット実験場(秋田県能代市)での固体モーターの燃焼実験や、和歌山県串本町でのロケット射場「スペースポート紀伊」の建設といった周到な準備を経て、「いよいよ初号機の打ち上げ」となった中での延期となった。

国内で宇宙産業の発展を加速させるには、ロケットなどの開発から製造、打ち上げまでを可能な限り国内でカバーできる環境を整えられるかどうかもカギとなる。

【続き】「人工衛星量産化へ、酒巻キヤノン電子会長インタビュー」はこちら

日刊工業新聞 2023年02月02日

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