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2040年に100兆円規模…成長の勢い増す宇宙産業、日本は世界に存在感を示せるか

2040年に100兆円規模…成長の勢い増す宇宙産業、日本は世界に存在感を示せるか

アクセルスペースの小型人工衛星

宇宙産業の成長の勢いが増している。国内では主導役が政府から民間へとシフトしつつあり、人工衛星の開発や通信、ロケット打ち上げなど多方面で大手企業のみならず、ベンチャー企業の挑戦も目立ってきた。一方、米中を筆頭に海外勢も宇宙ビジネスを活発化している。成長軌道に乗った宇宙産業で日本は世界に存在感を示していけるか、2023年は重要な年となる。(飯田真美子、戸村智幸、編集委員・嶋田歩)

40年100兆円規模、VB台頭・商業活動増加

世界的に宇宙産業市場への成長期待が高まっている。宇宙ベンチャーの台頭や商業宇宙活動の増加が見込まれ、40年の市場規模は17年比3倍の100兆円規模に達するとの予測もある。宇宙ベンチャーのインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)の創業者の一人である堀江貴文氏は「約25年前にインターネットビジネスをはじめた時と似た勢いがある。本気で宇宙ビジネスに取り組んでいる」と目を輝かせる。

日本政府も19年に公表した「宇宙産業ビジョン2030」で国内の宇宙産業の市場規模を30年代初頭に2兆4000億円に倍増するとした。

22年12月に公表した宇宙基本計画工程表では「宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションの実現」を掲げ、国として宇宙開発を強化する方向性を示した。

日本の宇宙産業はこれまでは政府主導の「オールドスペース」が主流だったが、最近では民間主導の「ニュースペース」が増えつつある。特にベンチャーが50社以上あり、若い人たちが活発にビジネスに挑んで世界としのぎを削っている。その中で岸田文雄首相はベンチャー投資の重要性を強調しており、政府の強力な後押しは宇宙分野にとって大きな力となる。

小型衛星で強み発揮

宇宙ビジネスにはいくつか種類があるが、中でも人工衛星を利用した産業が最も多い。日本は特に手のひらサイズで数キログラムの衛星、100キログラム級までの衛星など小型モデルの製造・サービスが得意だ。複数の衛星を宇宙空間に配置する「衛星コンステレーション」で強みを発揮し、通信や衛星測位システム(GNSS)、地球観測などを高度化できる。

人工衛星向けの光通信網を開発するワープスペース(茨城県つくば市)の常間地悟最高経営責任者(CEO)は、「宇宙の通信分野はニッチで成長率が高い。日本企業は製品の安全性などが評価され、各国から市場が得られる」と強調する。

超小型衛星の生みの親である東京大学の中須賀真一教授をはじめ、その弟子となる人材の活躍も目まぐるしい。その一人である中村友哉CEOが率いるアクセルスペース(東京都中央区)は、顧客の超小型衛星の開発を手がけつつ、自社でも衛星コンステを構築し、リアルタイムでの地球観測を実現しようとしている。

商業衛星、輸送ビジネス展開「最速配達」狙う

JAXAは、三菱重工業と共同開発している「H3」ロケットを2月に打ち上げる(燃焼実験=JAXA提供)

衛星などを輸送する技術も重要だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が民間企業と共同で長年、開発や打ち上げを担ってきた。その一つである三菱重工業は大型基幹ロケットを担当し、2月には新型の「H3」試験機1号機を打ち上げる。打ち上げ費用は現行の「H2A」の半額の約50億円。これまでの官需中心からシフトし、商業衛星などの民間需要を獲得していけるかがカギとなる。

またJAXAは、IHIエアロスペース(東京都江東区)と開発中の固体燃料ロケット「イプシロンS」を23年に打ち上げる。22年には現行の「イプシロン」6号機の打ち上げに失敗した。24年度にIHIエアロへ打ち上げ主体を移管する計画を掲げており、難局をどう乗り越えていくか視線を集める。

キヤノン電子やIHIエアロなどが出資するスペースワン(東京都港区)も注目株の一つだ。2月末に小型ロケット初号機を和歌山県串本町に整備した専用射場から打ち上げる。小型の商業衛星の輸送ビジネスを展開し、契約から打ち上げまでが12カ月以内、衛星受領から4日後に打ち上げる「最速配達」を狙う。

他にも、日本初の探査機の月面着陸を目指すispace(アイスペース、東京都中央区)や、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去サービスを手がけるアストロスケール(東京都墨田区)などさまざまな宇宙ビジネスが展開されている。

衛星製造実績 米スペースX、世界全体の69%

スペースXは小型衛星60基を一気に打ち上げた(スペースX提供)

世界を見ると現状では、米企業の活躍が目立つ。その中でもイーロン・マスク氏が率いるスペースXの存在は大きい。例えば、21年の衛星の製造実績をみると世界全体(1448機)のうち、69%となる998機が同社の通信衛星。輸送ビジネスも手がけており、衛星だけでなく人間も宇宙に運んでいる。

ロシアは長年培った技術力を持ち、有人輸送の経験も豊富であるが、ウクライナ侵略の影響で現段階では低迷しつつある。一方、中国は近年、急成長を遂げており、21年度のロケットの打ち上げ実績は米国を超えて年間55回で世界一。宇宙飛行士の野口聡一さんは「今は政治的な対立もあり簡単には中国と協力できないが、大きな枠組みの中にどのように取り込むかが課題」と話す。今後の発展を見越して中国の動きを注視する必要がある。

安全保障、重要性高まる ミサイル発射を早期探知

安全保障という観点でも宇宙の重要性は高まっている。防衛省は防衛力抜本的強化の初年度に当たる23年度予算で、宇宙領域の能力強化として「衛星を活用した極超音速ミサイル(HGV)探知・追尾等、対処能力向上に必要な技術実証」に46億円を盛り込んだ。また宇宙領域把握(SDA)衛星製造など「SDA強化」に595億円を充てた。

わが国を射程に収める弾道ミサイルを中国は約1900発、巡航ミサイルは約300発を保有するとされており、これらへの備えが急務となる。加えて中国は宇宙の軍事利用に積極的で、わが国としても早急に対策を打つ必要に迫られている。

SDA衛星は日本は26年度までに打ち上げ予定だ。HGVは中国、ロシア、北朝鮮はすでに開発に成功しているとされる。衛星を活用し発射を早期に探知、追尾することで敵攻撃に対処する。

民間の衛星コンステのサービスを陸海空の自衛隊が利用し、国土防衛に役立てる計画もある。情報収集で優位に立つという観点でも宇宙空間の有効活用が求められている。

日刊工業新聞 2023年01月04日

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