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健康チェックや食品ロス削減に生かす、「においセンサー」の進化

機械学習用いて判定最適化

空気に混ざった物質を検知することは、さまざまな形で暮らしに役立つ。台所のガス漏れ警報器は身近な例である。ヒトから発生する生体ガスや食品ガスに含まれる特定のにおい成分の検知は、ヒトの健康状態や食品の鮮度の判定に活用できる。しかし、成分によっては、環境中にもともとある他の成分の濃度と大差がないので、1種類のセンサーでは判定に十分な精度が出ない。ヒトが複数の嗅覚受容体を使って脳でにおいを認識する仕組みに倣い、複数のセンサーシグナルと機械学習で、精度よく低濃度のにおいを判定できると考えた。

産業技術総合研究所(産総研)では、においガスを検知できる従来型の半導体式センサーと、独自に開発した「バルク応答型」と呼ぶセンサーを組み合わせたセンサーアレー素子を使うセンシング技術を開発した。この技術を使うと、室内に妨害ガスがあっても、特定のにおいを識別できる。従来型の半導体式センサーは、湿度の影響を受けやすいが、バルク応答型の半導体式センサーは、原理が異なるため湿度の影響を受け難い。そのため、バルク応答型のセンサーを組み合わせることで、においの識別能力が向上した。

産総研では、この技術を使った携帯型のセンサーシステムを試作し、生体ガスや食品ガスのスクリーニング(選別)を行い、目的に応じたデータベースの構築や機械学習を用いた判定の最適化に取り組んでいる。センサーによる気体の検査は、誰でも簡単に取り扱うことができる。例えば、呼気による健康チェックや食品ロスの削減に向けた鮮度管理への応用が期待できる。

将来は、ガスセンサーの材料の種類ごとにシグナルのデータベースを作製し、目的に応じて最適なガスセンサーを選択することで、においの判定プロセスを最適化し、さまざまな目的に対応させることで、においの可視化ができるようにしていきたい。

産総研 極限機能材料研究部門 電子セラミックスグループ 主任研究員 伊藤敏雄

2005年に産総研に入所し、これまで一貫して半導体式ガスセンサーに関する研究開発に従事。特に最近は、センサー材料の開発と機械学習の活用、どちらかだけではなく両方を熟知してアプローチすることが重要と考えながら研究に取り組んでいる。
日刊工業新聞 2022年12月01日

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