【ディープテックを追え】VRを使い、アルツハイマー病を早期発見!
長く不治の病とされてきた認知症「アルツハイマー病」(AD)。この状況に変化が起きてきた。神経細胞を破壊するとされるたんぱく質を除去し、病気の進行を抑えることが期待できる医薬品の実用化に向けた動きが加速している。MIG(東京都渋谷区)は仮想現実(VR)ゴーグルを使った検査でAD発症の兆候を発見。早い段階での予防を目指す。
アルツハイマー病を早期発見
ADは「嗅内野」という領域から神経細胞の破壊が始めるとされる。その後、周辺領域での神経細胞の破壊が進むことで、「軽度認知障害」などへ症状が進行する。
医薬品の実用化も進む。エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンが開発した「レカネマブ」は、脳の神経細胞に蓄積して変性を引き起こす原因と考えられている可溶性のアミロイドβ凝集体(Aβプロトフィブリル)をターゲットとした医薬品。Aβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内から除去することでADの進行抑制が期待される。早期のAD患者を対象とした実用化に最も近い第3相臨床試験では、レカネマブを投与した患者は投与しない患者に比べ、記憶や判断力などの低下が27%抑えられたという。
しかし、一度破壊されてしまった神経細胞を再生できず、早期にADを発見したり、予防・治療することが重要になる。MIGは嗅内野での神経細胞の破壊の兆候を測定する。軽度認知障害などよりも早い段階で状況を把握し、予防することでAD発症のリスク低減を目指す。
”脳のGPS”を測定
同社が測定するのは嗅内野の「空間ナビゲーション」という機能だ。空間ナビゲーションは空間内での自分の位置情報を知る全地球測位システム(GPS)のような機能のこと。嗅内野の神経細胞が破壊され始めると、空間ナビゲーションに異常が生じる。
同社はこの機能を、VRゴーグルを使い測定する。VR上に表示された疑似空間をコントローラーで移動する。疑似空間に表示された黄色と赤色の旗を経由し、出発地点まで戻るというものだ。戻ってきた地点の位置が出発地点とどの程度一致するかによって、現在地や帰路を推定する空間ナビゲーションの機能を測定する。学習院大学理学部生命科学科教授で、同社の高島明彦最高科学責任者(CSO)は「人間は周りの風景などを観察することで、空間ナビゲーションの衰えをカバーする。VR空間であれば風景などの情報を少なくし、空間ナビゲーションを測定できる」と利点を話す。これに生活習慣の問診を組み合わせ、脳の健康状態をスコア化する。また空間ナビゲーションを鍛えるトレーニングや生活習慣の改善を提案し、ADの発症リスクを低減する。甲斐英隆最高経営責任者(CEO)は「AD予防の介入効果を高める」と力を込める。
継続的に検査を受けられるようにして、嗅内野の状況を継続的に把握する。症状の進行が疑われる場合、専門の医療機関と連携する。予防から医療をシームレスにつなげる。今後、普及に向けて企業の健康診断や人間ドックで提供する。将来は医療機器承認の取得も目指す。
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