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デジタル技術で街づくり、全国で進展する「スマートシティー」の今

デジタル技術で街づくり、全国で進展する「スマートシティー」の今

富士通Japanのシステム技術者の福地氏(右から2人目)は北海道神恵内村の将来像策定に奔走する

スマートシティー(次世代環境都市)をはじめとする、デジタル技術の活用による街づくりで新たな打ち手が問われている。背景には、このままでは少子高齢化で日本全体が縮小し、人手不足で住民サービスなどが維持できないといった危機感がある。デジタル化の遅れは一朝一夕には解決しないが、地域活性化への取り組みを官民一体で加速することが不可欠。政府が推進するデジタル田園都市国家構想(デジ田)が“みちしるべ”となる。(編集委員・斉藤実)

スマートシティーの推進は自治体主導では限界があり、民間の活力を生かした協議会モデルや、企業などと一体となったコンソーシアム(共同事業体)を一般社団法人として立ち上げることが多い。

こうした動きは大都市や観光地などで脚光を浴びるが、全国1700超の自治体のうち1000程度は人口3万人未満であり、その多くは過疎化が進む。デジ田が掲げる「誰一人取り残されない社会」を実現する意味でも新たな打ち手が求められる。

「デジタル変革(DX)といっても、何をしたらよいか分からない」。多くの自治体がこうした悩みを抱えている。カギを握るのはDX人材だが、ITベンダーに応援を頼むにしても、小規模の自治体の場合はコスト面で契約が成り立たず、解決への糸口を見いだすことすら難しい。

北海道・神恵内村 富士通系のSE受け入れ

このギャップを埋めるのが、内閣府による「地方創生人材支援制度」や総務省の「地域活性化起業人」などの国の助成制度だ。これに基づき、北海道の積丹半島にある神恵内村では、2021年6月にデジタル化戦略担当者を迎え入れた。

3年間の期限付きで神恵内村役場に着任したのは、富士通Japan(東京都港区)のシステム技術者(SE)の福地達貴氏。「従来型の請負契約に基づく派遣ではなく、自治体の一員として地域の課題を考えるために出向者を社内公募で選んだ」と、同社の天野隆興クロスインダストリービジネス本部シニアディレクターは人選の経緯を打ち明ける。

神恵内村は人口800人弱と、道内で2番目に人口が少ない村で、半分以上の450世帯が独居だ。基幹産業の漁業についても担い手不足や高齢化といった課題を抱え、さらにコロナ禍で公民館が閉鎖。24年には公共バスが廃止される予定など、過疎化が著しい。

福地氏は着任早々に全家庭を訪問して困り事を聞き回ったり、役場の若手らと意見交換したりで奔走。その成果を踏まえ、村全体が目指す「10年後の姿」をビジョンマップとして策定した。これに基づき、まずは村内の交流の活性化と、子どもの教育の充実に焦点を絞ってデジタル技術を活用していく。

千葉・市原市 スローデジタル発信地に

一方、房総半島の中央部にある人口約27万人の千葉県市原市。東京都や千葉市のベッドタウンとしての地域特性があるが、人口が密集するエリアと、同市全体の3分の1の面積に4000人弱しか住んでいない過疎地に二分されている。

「市原市は臨海工業地帯に位置し、発電所もあれば農業もある。しかも1時間あれば都会にも過疎地にも行ける。まさに日本の縮図だ」―。地方でゆっくり暮らす際のデジタルの使い方「スローデジタル」を提唱する東京大学大学院の越塚登教授は、こう指摘する。

市原市も人口減が大きな課題。越塚教授はリモート環境の充実や生活を豊かにするデジタル活用などで「地元の人たちと移住する魅力をいかに高めるかを一緒に考えている」。同市をスローデジタルの発信地としたい考えだ。

「都市OS」活用進む 高松市などでNEC実証

120社・団体をメンバーとする「スマートシティ社会実装コンソーシアム」では意見交換などの活動が活発に行われている

120社・団体をメンバーとする「スマートシティ社会実装コンソーシアム」では意見交換などの活動が活発に行われている

スマートシティーの普及促進では「都市OS(基本ソフト)」と呼ぶ、データ活用・連携基盤のあり方も注目される。内閣府が推奨する「スマートシティリファレンス(参照)アーキテクチャ(設計概念)」に基づく都市OSは、欧州発のデータ活用基盤「FIWARE(ファイウエア)」と、デジタル先進国であるエストニア政府の情報連携プラットフォーム「X―Road(エックスロード)」が代表格だ。

FIWAREはNECが日本に持ち込み、福岡市や高松市、兵庫県加古川市などで実証中。120社・団体をメンバーとする「スマートシティ社会実装コンソーシアム」でも中核OSに据えている。

X―Roadはブロックチェーン(分散型台帳)技術などを使って、データの提供者と利用者を都度つなぐ仕組み。電通国際情報サービス(ISID)によると「サービスが5―10個ならX―Roadが安価で便利。サービス数が多く、自治体が主体的にデータを管理したい時はFIWAREが適している」。

同社はFIWAREとX―Roadの双方に対応した都市OSソリューション「シビリオス」を提供。OZ1(東京都千代田区)と提携し、大阪府豊能町で小規模のコンパクトシティー型スマートシティーの実装モデルを構築中だ。

デジ田をみちしるべに、全国各地で多様な取り組みが進展している。

日刊工業新聞 2023年01月04日

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