未来から逆算、量子コンピューターで社会変革を起こす「QX」とは?

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これまで解けなかった社会課題や膨大な計算問題が一瞬で解けたら、社会や産業の形態が変わる。これを可能にするのが量子コンピューターだ。“夢の計算機”と呼ばれていた量子コンピューターはここ数年で急速に進化を遂げ、欧米や中国が覇権争いで火花を散らす。日本も国策の「量子技術イノベーション戦略」に加え、「量子技術による新産業創出協議会(QーSTAR)」の設立など“クオンタム(量子)時代”への動きが加速する。 (編集委員・斉藤実)

【ウェビナー開催】量子技術の圧倒的な進化がもたらす未来。ビジネスパーソンが今できることとは?

数十万台の飛行ロボット(ドローン)や空飛ぶタクシーが都市の上空を飛び交うエアーモビリティー社会ー。こうした未来像を203X年に想定し、住友商事は量子コンピューターによる社会変革を掲げる「クオンタム・トランスフォーメーション(QX)」の先駆けとして、量子コンピューティング共同研究講座で連携する東北大学、無人機管制で実績を持つ米ワンスカイとともに産学連携で「クオンタム・スカイ」プロジェクトを立ち上げた。

第1段階では、都市の上空をランダムに飛び交うドローン40ー70台を想定。量子計算により全体をコントロールすることで、渋滞なく効率良く運行できることをシミュレーションで実証した。

ここでの挑戦は、刻一刻と変わる気象や電波状況に加え、他機の飛行などを踏まえた複雑な制約条件の下で瞬時に最適ルートを導き出すこと。指数関数的に増え続ける膨大な計算パターンを超高速に解くために、5000量子ビット超で15の全結合能力を備えた、カナダのディーウェーブ・システムの量子アニーリングの最新機「アドバンテージ」を活用した。

住友商事が提携した米ベル・ヘリコプラー・テキストロンが開発を進める空飛ぶタクシー(イメージ)

ドローンの運行管制は旬のテーマだが、離島や過疎地ではなく、都市の上空をドローンが飛び交う未来を想定したのがミソ。時空を飛び越えた夢の話にも思えるが、そこにQXの神髄がある。
 「新しい産業を生み出すには、仮説に基づく未来の姿からバックキャストで考えることが重要だ」と語るのは、住友商事でQX事業を率いる寺部雅能デジタル事業本部新事業投資部部長代理(東北大客員准教授)。
 量子技術の活用といえば、現在直面している課題を解決するのが通常だが、その延長線では世の中を変えるブレークスルーの実現は難しい。これに対して、ビジョン発信型で未来から逆算で事を進めるのがQXの狙いだ。

量子コンピューティングを巡る覇権争いでは米グーグルや米IBMなどの巨大企業がしのぎを削り、巨額な開発資金をつぎ込んでいる。それに追従しても「永久に後追いとなってしまうが、アプリケーション(用途)領域なら勝ち筋がある。アプリは最初に手がけた者が勝つ」と、寺部氏は“未来のアプリ”を作る意義を強調する。
 QX事業では、住友商事がベトナムの北ハノイで計画中のスマートシティー(次世代環境都市)構想にも照準を合わせる。「272ヘクタールという広大な野原に10年程度かけて、スクラッチで新しい街を作る構想は世界的にも類を見ない」と語るのは、寺部氏とともにQX事業を率いる住友商事の蓮村俊彰新事業投資部部長代理。「10年後に完成する街ならばその時に最新となる技術が必要。量子コンピューティングはドンピシャだ」と展望する。

量子時代の本格到来に向けて、産業界主導で20年にQーSTARが旗揚げされ、話題を呼んだ。設立会員は電機・通信、金融、製造など24社で、住友商事も名を連ねた。
 QーSTARは産業界の力を結集して、先端領域で日本が再び世界に打って出る国家戦略が根底にある。QーSTARの参加メンバーによる革新的な試みや共創を通じ、QXのような世の中を変える挑戦が続々と生まれることが期待される。

【ウェビナー開催】量子技術の圧倒的な進化がもたらす未来。ビジネスパーソンが今できることとは?

インタビュー/住友商事デジタル事業本部新事業投資部部長代理・寺部雅能氏

住友商事デジタル事業本部の寺部雅能新事業投資部部長代理
サステナブル社会実現

寺部氏は前職のデンソー時代に東北大と共同で、量子アニーリングの活用に関する研究成果を国際学会などに発信してきた。2020年に住友商事に転じている。新天地での目標を聞いた。

ーQXという概念を提唱した理由は。
 「量子技術の本格的な活用は今後10ー20年かけて出てくる。ドローンが飛び交う社会はその一例だ。世界的にも類を見ないビジョンを打ち出すことで、それを参照モデルとして世界が付いてくるような実証を進めたい」

ー新天地として総合商社を選んだ背景を教えてください。
 「地球から宇宙まで事業領域が広く、それらを巨大な実証フィールドとして量子技術を適用すれば大きな社会変革を起こせる。ドローンの渋滞だけでなく、食料の需給バランスや、再生エネルギーの活用を含むエネルギー需給問題の解決など、量子技術を活用すればサステナブル(持続可能)社会が作れる」

ーディーウェーブは量子アニーリングに加え、ゲート方式の開発を表明しました。どう見ていますか。
 「究極的にはゲート型で無限に量子ビットがあればすべてに対応できる。だが、そういう時代はまだ先であり、当面は最適化問題を解くなら量子アニーリングだ。ディーウェーブは両方式に並行して取り組む方針だ」

【ウェビナー開催のお知らせ】
『量子技術の圧倒的な進化がもたらす未来。ビジネスパーソンが今できることとは?』

2022/9/9(金) 14:00 ~ 15:30 オンライン配信
<<お申込みはこちら>>
参加料:¥19,800(税込)
申し込み締切:2022年9月8日(木)12:00

 【アーカイブ配信】
本セミナーの参加申込者は、ウェビナー終了後、アーカイブ配信をご覧いただけます。
視聴可能期間:2022年9月9日(金)16:00~9月16日(金)17:00(配信開始時間は多少前後する場合がございます)
アーカイブ配信の視聴方法は、9月9日(金)16:00頃、メールにてご案内いたします。

【講演者紹介】
 寺部 雅能(てらべ まさよし)氏
住友商事 Quantum Transformation (QX) プロジェクト Technology Director
東北大学大学院 情報科学研究科 特任准教授(客員)

社会とテクノロジーの交差点に立ち、新たな価値の創出に挑戦し続ける元エンジニア・研究者の商社マン。
量子コンピューティングの社会実装分野で数多くの世界初実証、知財創出、論文出版、海外スタートアップ出資や国際会議での基調講演、招待講演等の実績を持つ。著書「量子コンピュータが変える未来」他。

日刊工業新聞2022年1月1日一部再構成

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キーワード
量子コンピューター

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