「リスクをとる」…イノベーション政策と現場つなぐ”プロ”育成へJSTの覚悟
科学技術振興機構(JST)はイノベーションのプロデューサーを育てるために研究開発マネージャーの募集を始めた。研究シーズや研究者を目利きし、成果の社会展開を進める。事務処理などを手伝う支援人材でなく、イノベーションを仕掛ける専門人材を求める。このために定年制雇用の枠を広げる。ただ募集内容は管理業務だ。マネージャーからプロデューサーに進化できるか挑戦が始まる。(小寺貴之)
「JSTはリスクをとる。イノベーション政策と研究現場をつなぐプロフェッショナルに挑戦してほしい」と橋本和仁理事長は呼びかける。JSTのリスクとは定年制雇用の拡大だ。JSTは定年制職員を運営費交付金でまかなえる範囲で雇用してきた。だが基金事業などの仕事が膨張し、全体は交付金の2倍ほどの規模になった。任期制職員でしのいできたが、定年制職員の枠を設け「最大600人まで採用可能」(橋本理事長)と道を広げる。定年制への転換でマネジメントのノウハウが蓄積される。
一方で基金事業には終わりがある。有期のプロジェクトのために無期の人材を雇えば終了後は人材が余る。このリスクを定年制職員の人繰りで対応する。橋本理事長は「組織としてのリスクはゼロではない。だが制御可能」と文部科学省を説得した。第一期「研究開発マネージャー」(仮称)として募集を始め、まずは10―20人程度の採用を見込む。
リスクをとって人材採用を進めるのはイノベーションのプロデューサーを育てるためだ。これまで支援人材はお手伝いさんとして認識されてきた。一方、米国ではプログラムマネージャーが専門職として確立している。日本でも分野を超えた研究構想を立案したり、企業と大学を結びつける人材が必要だった。
プロデューサーを求めるものの、募集内容は管理業務と権限は小さい。これは「研究構想はすぐにはできない」(橋本理事長)ためだ。政策立案は研究者と政策担当の高度な議論がある。JSTもプロデューサーの育成法を確立できていない。それでもJSTではプロジェクト途中のサブテーマの立ち上げやテーマの改廃が日々発生する。実践的にプロデュースに触れられる。大学や産業界に出向させて経験を積ませる。
研究しながらビジネスを考える時代になり、研究開発マネージャーが担うべき機能は広がり続けている。応募者は自らプロデューサーになる必要がある。マネージャーに収まらない仕掛け人が求められている。