現代の名工、時計組立工・浅岡肇氏の流儀
「直球勝負でストライクゾーンの真ん中を投げ込むような仕事」だと説明するのは浅岡肇さん。メーカーに属さず、個人で高級機械式腕時計を作る独立時計師だ。機械式腕時計に使う多くて300点の部品のほぼ全てをCNC旋盤などで自作し、組み立てまで一貫して行う。その技能で重力によってわずかなズレを補正する複雑機構『トュールビヨン』を搭載した腕時計を国内で初めて製作。作った腕時計を世界の王室や著名な時計愛好家に納品してきた。
子どもの頃からモノづくりやデザインが得意で、多数の部品が組み合わさる腕時計の複雑さに魅了された。東京芸術大学卒業後、産業デザイナーとして活躍するも、2005年ごろから空いた時間に時計を作りはじめ、独学で技能をマスターした。
直径30ミリメートルの円盤に無数の歯車やネジなどがあり、それらを「誤差ゼロくらいのレベルで作らないと最終的にはダメ」な世界で精神力が問われるという。
「入魂の1本」目指して
現在は自身の会社、東京時計精密(東京都文京区)で弟子に指導もしている。工作の素養もさることながら「いかに愛情を持って時計製造に取り組めるかということと人格、誠実さ」が求められるというから手厳しい。
今後について「デザインのシンプルさの中に美を見いだしていく」方針。ゆくゆくは「年に1本だけしか作らない『入魂の1本』を作らなければ作家として意味がない」と自身の思い描く最高の腕時計を作り続けていく。
日刊工業新聞2022年12月16日