登場から60年、追い風吹く「液体用紙パック」の最前線
液体用の紙製パックが日本に登場して60年がたった。外資系に次いで、国内の製紙、印刷・包装会社が参入し、今や液体容器の定番だ。折しもプラスチック削減や脱炭素、循環経済で、「紙化」の動きに追い風が吹いている。長期化するコロナ禍、円安傾向が増幅した原燃料高騰に直面する中で、技術開発やグローバル展開など課題は少なくない。日本らしい工夫が重ねられ、生活様式をも変えてきた液体用紙パックの最前線を見た。
「日本はアジア初の進出国で誇りと責任を感じている。当社の60年間には顧客との豊かな成功体験がある」と語るのは、日本テトラパック(東京都港区)のアレハンドロ・カバル社長だ。
テトラパックといえば立体三角錐が知られ、牛乳紙容器の代名詞の時期があった。スイスに本社を置き、世界シェア首位の紙容器専業。現法設立は東京五輪の準備に沸く1962年のことだった。
足元では、ミネラルウオーターの紙容器出荷が3年前から3倍となった。半世紀たつ御殿場工場(静岡県御殿場市)では、2年間で約55億円の大規模投資が進む。チルド(冷蔵)、アセプティック(常温)の容器双方で植物由来のコーティング剤を用いるなど「環境対応」を加速させる。
こうした中、パックの原紙である針葉樹パルプ、各種副資材、エネルギー価格などが高騰。欧米ではプラボトルからの置き換えが進む一方、ロシア・ウクライナ情勢が長期化しているからだ。「資源の奪い合いだ」と、日本製紙の大林保仁専務執行役員は訴える。純国内勢で最大手の同社は23年4月1日出荷分から、牛乳・飲料用紙パックの価格を18%以上値上げする。
21年11月の公表以来3度目の改定で過去最大の上げ幅。1年余に複数回の値上げは未曽有のことで、公表から4カ月超の“周知期間”を置くのは「顧客の来年度予算にきっちり組み込んでいただくため」(大林専務執行役員)。準備周到で他社の追随も予想される。
肝心の飲料需要は業務用などがコロナ禍前には戻っていないが、自然・健康指向の高まりなどで内容物は多様化するばかり。海洋プラ問題で拍車がかかる素材転換は日本にも及び、「紙化」への追い風は当分吹きそうだ。
紙パック各社は先駆者、テトラパックを「我々の先生」とあがめる半面、技術や需要開拓で対抗心をたぎらせる。ただ切磋琢磨し、年1000億円以上の国内市場を創造してきたのが実情だ。日本テトラパックのカバル社長は「各社は競合でかつ(原紙などを調達する)パートナーでもある。国内のリサイクル推進などでも連携は重要だ」と強調する。