【座談会】原発方針転換、革新炉は本当に進むのか?
――革新炉は多様な種類があります。それぞれの取り組み方をどう考えますか。
革新軽水炉:既存の軽水炉をベースに安全性を高めた原子炉。福島第一原発事故後にできた新規制基準で求められる追加の安全対策を標準で備えるほか、溶融炉心を受け止めるコアキャッチャーなどを搭載する。
小型モジュール炉(SMR):電気出力が30万㎾以下の原子炉。小型かつモジュールを組み合わせて製造する。炉心が小さいため自然循環で冷却できる。
高速炉:高速中性子を活用した原子炉。軽水炉の使用済み燃料を発電に利用できる。
高温ガス炉:900度C近い高温の熱を利用できる原子炉。減速材に黒鉛、冷却材にヘリウムガスを使うことで安全性を向上。発電のほか、水素製造での利用も可能。
核融合炉:原子核同士を融合し、エネルギーを生み出す原子炉。連鎖反応ではないため、万が一の際に反応を止められる。大型の試験炉の運用経験がないため、開発要素は大きい。
橘川氏:小型モジュール炉(SMR)は一番実用化が早いとされている。一方で今回の方向性案を見ると、新規立地はほとんど視野に入っていない。そうなると既存立地でしか建てられない制限の中で、30万キロワット以下のSMRを作るかと言われるとそれは考えにくい。経済性の視点から130万キロワット級の大型軽水炉を作る判断になる。
日本では高温ガス炉が重要ではないか。水素を作れるため、カーボンニュートラルを考えると相当有望だ。現在、電力コストの関係で水素製造の拠点が海外と想定されている中で、カーボンフリー水素の国産化の道が開けるのではないかと期待している。しかし最終的には核融合だと思う。日本も実用化の準備する必要がある。
薄井氏:我々が手がけている革新軽水炉は、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)。すでに東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原発(新潟県)や中部電力の浜岡原発(静岡県)に納入したものと同じ種類で、大きな開発は必要ない。高温ガス炉に関しては国内で日本原子力研究開発機構が運用する高温工学試験研究炉(HTTR、茨城県大洗町)がある。次は実証炉の開発、その次に実用炉の開発というフェーズが続く。
SMRは実用化に近いといわれるが、建設用地に制限がある日本には馴染まないのではないか。米国やカナダは国土も広く、分散電源の需要が高い。そうした背景は念頭に置いておくべきだ。
橘川氏:メーカーからすれば、革新炉の市場は日本だけに限らない。今回の方向性案はどう考えても美浜原発を想定している。だからこそ福井県の土地をどう使うのかという、未来像を方向性案では見せてほしかった。
――3つの革新炉(SMR、高速炉、高温ガス炉)は軽水炉の延長と捉えられます。その中で核融合は未来の話になります。現状の状況などはどうなっているのですか。
長尾昂(京都フュージョニアリング代表取締役):1982年生まれ。2005年京都大学工学部物理工学科卒業。 07年京大大学院工学研究科機械理工学専攻修士課程を修了、アーサー・ディ・リトルジャパン入社。10年エナリス入社。同社のマザーズ上場に貢献。19年京都フュージョニアリング設立。核融合炉の加熱装置や熱取出し装置、プラントエンジニアリングを中核に、核融合エネルギーの実現に取り組む。
長尾氏:核融合プラント向けのコンポーネントを供給する我々の立場からすれば、早期の実現を目標にしている。ただ技術的な課題があり、時間がかかるのは事実だ。一方で、米国のスタートアップなどは30年代の実用化を目指しており、英国も40年ごろに商業炉を作るという流れになってきている。核融合の実現はこれから3回くらいムーブメントが来ないと難しいのではないか。今のメディアなどの盛り上がりは1回目だと思う。そういった流れが、核融合への人材流入につながるのではないか。やはり若い人が核融合業界に入ってくるには、(核融合のメリットや実現への)期待値は必要だ。原子力の後に核融合があるのか、原子力を最小限の新設にした上で、核融合にシフトするのか。さまざまな考え方があるが、国としてどうリスクヘッジをしてコントロールしていくかという段階ではないか。
薄井氏:当社は国際熱核融合実験炉(イーター)や量子科学技術研究開発機構(量研機構)のJT―60SAなどに部品を供給してきた。原子炉には、さまざまな炉型があるが超電導やタービンなど共通する技術も多い。オールジャパンで革新炉を作っていく中で、我々は得意な部分を担っていく。
――経産省の「革新炉ワーキンググループ」ではサプライチェーンの脆弱化も指摘されています。
革新炉ワーキンググループ:総合資源エネルギー調査会の下に設置した専門部会。革新炉開発のロードマップや原子力全体のサプライチェーンの維持・強化を目的に議論を進めてきた。
薄井氏:プラントの建設と再稼働のサプライチェーンは全く違う。建設時にしか作らない製品も多いため、組織が無くなったり、人材が確保できなくなっている。建設の経験はその仕事でしか得られないものがある。人材が高齢化して継続的に仕事がなければ、人材が入れ替わり、サプライチェーンは自然と脆弱化していく。新しいプラントの建設計画が立つと、我々もサプライチェーンにさまざまな開発を依頼したり、設備投資が進んでモチベーションが高まったりする効果はある。
長尾氏:核融合のサプライチェーンはまだできていない。我々が採用する人材には核融合のプロフェッショナルはまだ少ない。製造を依頼するサプライチェーンを探す作業にも苦労している。一方で欧州ではイーターを中心にしたサプライチェーンができつつある。小さな企業が多いが、官僚主義的に上手く整理してきている。
原子力から核融合への移行を想定すれば、技術のベースを作っていく長期的なビジョンを考えていくことは重要ではないか。
どこがリスクを取る主体なのかという課題は原子力、核融合どちらにも横たわる。日本の強みである歴史的に積み重ねてきた「ものづくり」を生かす施策が必要だ。この部分を整理すればエコシステムの形成が進み、サプライチェーンは動き出すのではないか。
薄井氏:軽水炉や高温ガス炉、核融合などそれぞれ炉内構造物は異なるが、タービンなど共通する部分も多い。核融合専用のサプライチェーンというよりも、原子力から少なからず技術的に移行できる部分はある。そういった意味で長期的な計画がサプライチェーンを守っていくことに役立つはずだ。
瀧口氏:エネルギー政策は100年先を見るべきだ。重力、電磁力の比ではないエネルギー量を生み出す核力のエネルギーを使わない100年後は想像できない。一方で、原発の高レベル放射性廃棄物や核燃料サイクルの問題を、将来にわたって積み増し続けるのか。「持続可能性」というキーワードは核力の分野でも重要だ。そうなると今の技術をつなぎながら、核融合の実現を目指すべきだ。リスクを踏まえた上で、いかに核融合産業へつなげるかを意識したほうが産業界にとって良いのではないか。核融合の実現をゴールにした上で、逆算して取り組むべきだ。今は高度な産業へチェンジできるチャンスではないか。
――どこがリスクを取るのかという課題は難しくなってきています。大規模な安全対策を必要とする発電施設で民間企業がそのリスクを取ることは現実的に可能でしょうか。
橘川氏:原発の深刻な課題は、主体として国と民間のどちらも未来を切り開く主体として脆弱なことだ。今回の政府方針にしても新設に電力会社が前向きだったら、すぐに飛びついてくるはずだ。電力会社や国にも当事者能力を持つ存在がいなくなっているのではないか。
革新炉もそうだ。米国のテラパワーが開発する高速炉も、日本の技術が悪いからやめたのではない。原子力機構のガバナンスが問題だったのではないかと考えている。当事者能力のある主体がいないことが問題だ。
軽水炉に関しては、民間でいけるのではないかと思っている。私は関西電力と中部電力が組む形で美浜原発4号機を建設するべきだと考えている。もう一つは許可も出ている柏崎刈羽原発を動かさないのはありえない。東京電力HDが柏崎刈羽原発を売却し、福島事故と切り離す。そうすれば東北電力・日本原子力発電(原電)などの新しい事業主体によって、柏崎刈羽原発の再稼働が実現できるのではないか。メリットとして電力の卸売市場も充実する。そのくらい大胆な改革があってもよいのではないか。
――核融合に関しては政府が9月に有識者会議を立ち上げ、戦略を打ち出すことになっています。
長尾氏:英国では英国原子力公社(UKAEA)という半官半民の企業を中心に戦略を進めることになっている。原子力の研究開発を進める主体なのだが、核融合も対象領域としている。米国はスタートアップにどんどん進めさせる形を取っている。宇宙船開発のスペースXやSMR開発のニュースケール・パワーの事例に倣っている。一方で失敗した時のために国立研究機関がプロジェクトに参加して、技術のセーフティネットを張っている。
その点、日本はやはり曖昧だ。量研機構や核融合科学研究所は優秀な人材がいる素晴らしい研究機関だ。ただ実施主体として実証・商業炉の開発プロジェクトを進める存在ではなく、あくまで研究機関だ。メーカーなどは装置を作る側に回らざるを得ず、プロジェクトを推進するのは難しい。どこがリスクを取る主体なのか、しっかり議論する場は不可欠だ。
個人的には国内の電力需要ともう一つ、インフラ輸出の観点が必要ではないか。
日本の人口が間違いなく減っていく中、優秀な技術者や企業を残すには利益を得ていく強い産業を国内で確保しないといけない。我々はすでに海外のプロジェクトに参加して、半分日本、半分グローバル企業の感覚だ。インフラを輸出するなら、日本の企業でも世界に根差した企業として海外のプロジェクトに参加する動きが当然求められる。だからこそリスクをきっちり取れる主体は必要で、さまざまな組織から人を出し合う「複合体」のようなやり方には反対だ。
瀧口氏:やはり若い人は未来への期待がある分野に集まるはずだ。夢のある産業構造を目指す必要がある。
橘川氏:結局のところ国や電力会社はドメスティックな存在で、メーカーの方がグローバルに状況を見ている。国内市場に任せておくと、国の影響力が強すぎる。グローバルであるメーカーとドメスティックな国や電力会社とのズレが大きくなってきているのではないか。
今、エネルギー会社に入る若者はカーボンニュートラルをやりたくて入ってくる。むしろこの分野は追い風だ。仕組みを作れば、必ず人材は育つと思う。