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「先端」半導体に再び挑む、ニッポンは世界競争を勝ち抜けるか

「先端」半導体に再び挑む、ニッポンは世界競争を勝ち抜けるか

ラピダス設立会見での小池社長(左)と東会長

日本の半導体産業の復活に向けた動きが加速する。経済産業省は「ビヨンド2ナノ」と呼ぶ次世代ロジック半導体について、近く技術開発拠点「最先端半導体技術センター(LSTC)」を立ち上げる。新設された半導体メーカー「Rapidus(ラピダス)」がLSTCと連携して量産拠点を構築するのを支援し、2020年代後半の国内生産基盤確立を目指す。一度は「敗戦」の歴史をたどった先端半導体ビジネスに、国を挙げて再挑戦する。(編集委員・錦織承平、同・池田勝敏、山田邦和)

新会社に問われる“速さ”

「規模の面で台湾積体電路製造(TSMC)やサムスン電子を追いかけることはしない。最先端の半導体(の量産)に特化したファウンドリーとして差別化を図る」。11月11日のラピダス設立会見で小池淳義社長はそう力説した。

新会社は、TSMCとサムスン電子が2025年の量産着手を目指す回路線幅「2ナノメートル(ナノは10億分の1)」の最先端ロジック半導体の製造技術を今後5年程度で取得し、27年ごろに量産する目標を掲げる。量産段階で採算が取れるビジネスモデルを構築できるのか。小池社長は「先端3世代くらいしか手がけず、大規模工場を次々に造ることもない」ファウンドリーを目指すことで可能だと説明する。

1枚当たりの利益率は汎用品より「先端ロジック品の方が実は高い。最終製品のパフォーマンスを高める最先端半導体をつくれば、顧客は高い値段で買ってくれることの証左だ。この領域を目指す」(小池社長)。 

一方で「最先端品は減価償却負担が大きく、プロセスが安定するまでコストが割高になるため、利益が出にくいはず」(業界関係者)との意見も根強い。

2ナノメートル世代の半導体を搭載する最終製品は現状、日本国内には少ない。「今後はクラウドコンピューターをはじめ、完全な自動運転車などで2ナノメートルの半導体が必要になる」と小池社長は話す。確実に需要を取り込むには、東哲郎会長が指摘するような「顧客と連携し、最終製品を想定しながら開発を進める」取り組みに加え、マーケティングや価格戦略など経営の総合力も試される。

世界競争を勝ち抜くのに何より重要なのが経営のスピード感だ。ラピダスをめぐっては出資する複数の“親会社”、政府、協業を目指す海外企業など関係者が入り乱れる。ラピダス(ラテン語で「素早い」)にふさわしいスピードを実現できるのか、経営陣の手腕が問われる。

新研究組織で官民の連携深化

デジタル社会の進展や経済安全保障の面から半導体の重要性が高まる中で、政府は大胆な政策を矢継ぎ早に打つ。熊本で建設が進むTSMCの先端半導体工場に、最大4760億円の補助を決定。10月にまとめた総合経済対策に関連し岸田文雄首相は「1兆3000億円を措置して半導体の国内投資を全国展開する」と表明した。

こうした中で、始動するラピダスとLSTC。ラピダス会長、LSTC理事長に就いた東京エレクトロン元会長の東氏は、半導体産業政策の方向性を定めるために経済産業省が21年に発足した「半導体・デジタル産業戦略検討会議」で座長を務める。またラピダスに出資する企業8社のうち、6社が同会議のメンバーだ。昨今の政府と半導体産業の密接な関係を象徴する。

「当時の政府が世界の半導体産業の潮流を見誤り、適切かつ十分な施策を講じなかった」。かつて世界を席巻した「日の丸半導体」の衰退を経産省幹部はこう振り返る。自前主義に固執したことが一因だ。これを教訓に経産省は今回、海外連携を一層重視する。5月に日米政府が合意した「半導体協力基本原則」をベースに米国立半導体技術センター(NSTC)やIBMと協力する方針。ベルギーの研究機関imecや蘭ASMLとも連携に向け協議中だ。

半導体回路の微細化はトランジスタの構造変化を伴って進んできた。22ナノメートル世代を節目に、平面(Planar)型から「Fin(ひれ)」構造の3次元型に、現在商品化が進む3ナノ世代からは「Gate―ALL―Around(ゲートオールアラウンド)」に移行する。

TSMCや韓サムスン電子、米インテルが量産技術開発で競う中、日本勢は40ナノ世代までしか作れない。ラピダスが狙うのは「ビヨンド2ナノ」。別の経産省幹部は「10年遅れているが構造が大きく変わる節目にあり、キャッチアップできるチャンスだ」と話す。


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日刊工業新聞 2022年12月05日

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