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ペーパーレス化が逆風、オフィス機器メーカーが印刷産業で掘り起こしたい新需要

ペーパーレス化が逆風、オフィス機器メーカーが印刷産業で掘り起こしたい新需要

千葉印刷の「さかなかるた」は富士フイルムBIのデジタル印刷技術で、魚のうろこの色や凹凸をリアルに再現した

ペーパーレス化など影響

大手事務機器(OA)メーカーが、印刷産業で新たな需要の掘り起こしを急いでいる。印刷会社向けに小ロット多品種に対応できるデジタル印刷の提案をしたり、自動車などの塗料に代わる産業用途向けインク開発をしたりしている。背景にはデジタル化やペーパーレス化に伴う印刷需要の減少がある。顧客である印刷会社などに対し、受注型から需要創出型へのビジネスモデル転換を促し、印刷機の販売機会を拡大するという好循環を生み出したいという思惑がある。(高島里沙)

【富士フイルムBI】デジタル印刷の成長期待

富士フイルムビジネスイノベーション(BI)は、デジタル印刷の成長を狙う。現状では印刷市場の主流は新聞や雑誌のように大量印刷するオフセット方式で、国内におけるデジタル印刷の割合は10%にも満たない。伸びしろは大きく、富士フイルムBIの木田裕士執行役員は「将来的にはデジタル印刷が、印刷市場全体の50%に届くだろう」と期待を込める。

千葉印刷の「さかなかるた」は富士フイルムBIのデジタル印刷技術で、魚のうろこの色や凹凸をリアルに再現した

同社はデジタル印刷の普及に向けて、少量から短納期で印刷できることや、通常のCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)にゴールドやシルバー、クリアーなど特殊色を加えた表現力をアピールする。42億色を用意可能で、“しょせんプリンター”とは言わせない、オフセット印刷と変わらない印刷技術として訴求する。

特殊色を最大限に生かした好事例が、千葉印刷(東京都渋谷区)の「さかなかるた」だ。魚のうろこの色や凹凸がリアルに表現されており、会員制交流サイト(SNS)などでも話題を集めた。他にもアーティストやデザイナーの出版物、ポスターなどデジタル印刷による事例を集めながら、新需要の開拓を進める。

また富士フイルムBIは印刷会社と協業して、BツーC(対消費者)企業などに向けて、マーケティング支援サービスを提供する。顧客データの分析に基づいたダイレクトメール(DM)配信やウェブサイトの改善など、デジタルと紙の両面から販促施策を提案する。木田氏は「100打てば1打当たるマーケティングから、50打てば5打当たるマーケティングを目指す」と語る。

【コニカミノルタ】感性を見える化、購買意欲向上

コニカミノルタも同様に、印刷会社とともに需要の創出に注力する。同社のデザイン解析サービス「EX感性」は、人の感性を見える化することで、訴求力の高いデザインを導き出す。具体的には、感性脳工学に基づくアルゴリズムを採用したオンラインの画像解析で、人が注目する部分をサーモグラフィーのように定量的に示す。デザイン担当者らは、データに基づいて、視認性を高めるなどデザインを改善していける。紙媒体からデジタルコンテンツ、スーパーやドラッグストアなどあらゆる場面に対応可能だ。

パッケージやポスター、ウェブサイト、売り場のポップなどの印刷物で、商品特徴などの訴求点を目立たせているつもりでも、実際の視認性は低かったりするケースが多いという。印刷会社が顧客である小売りなどに対し、消費者の購買意欲をデザイン改善で高めるといった提案をし、印刷需要が増えれば、コニカミノルタにとって印刷機の販売機会が増える。受注型の印刷会社を提案型に導き、ウィンウィンの関係構築を狙う。

現在はプロトタイプでテストマーケティングを実施している。小売りや消費財メーカーを中心にすでに数百社から問い合わせがあるという。23年の春以降に正式に発売する方針だ。

【リコー】産業用途への展開見据える

従来の表示する印刷から、自動車塗装や半導体部品に導電材・絶縁材を印刷するなど産業用途への展開を見据えるのがリコーだ。同社は高い粘度や大滴サイズの塗料を吐出できるインクジェット(IJ)ヘッド技術を持つ強みを生かして、活用領域を拡大する方針だ。自動車の外板向けデジタル塗装技術を目下開発中。高粘度な塗料で塗装することで、塗装面の滴の垂れなどを防ぎ、材料やエネルギーの無駄を最小限に抑える。

他にも壁面や路面など、凹凸面のある立体物や大面積への塗装技術の開発にも取り組む。また紫外線硬化性や絶縁性、熱伝導性などのさまざまな機能を持つ材料のインク化にも注力する。リコーの太田善久理事は「デジタル印刷は伸びるとはいえ、もう一段先を考えるとどこまで成長するかは分からない」と危機感をのぞかせる。印刷事業で培った技術力を基に、産業用途など新たな顧客価値を見いだす。材料メーカーなどとの協業も増えるなどオープンイノベーションによる開発を推進している。

出荷額が減少傾向、ロボなど活用し工程効率化支援

経済産業省の工業統計調査によると19年の国内の印刷産業の出荷額は約4兆9000億円で、1991年の約9兆円をピークに減少傾向にある。新聞や書籍、雑誌など出版物の減少に加え、チケットなどあらゆる紙メディアの電子化が進んでいる。市場の縮小傾向に加え、紙やパルプなどの生産資材は高騰するなど、印刷業界の営業利益は低下している。印刷業界は、人手に頼る部分が多い労働集約型で、長時間労働の常態化も課題となっている。

キヤノンの「イメージプレスV900 封筒フィーダーモデル」。封筒の大量出力業務を効率化する

キヤノンの「イメージプレスV900 封筒フィーダーモデル」。封筒の大量出力業務を効率化する

そうした中、OAメーカーは、新たな需要創出だけでなく、印刷工程の効率化支援事業を強化している。キヤノンは自社の機器だけでなく他社の周辺機器を含めたソリューションを積極的に提案している。例えば同社の印刷機「イメージプレス」シリーズに、一度に300枚の封筒をセットできる他社製の機器を組み合わせ、封筒の大量出力業務の効率化を支援する。

富士フイルムBIは、印刷の全工程や工程間作業を可視化する統合管理システムを提案する。導入効果として最大4割の工数削減を実現するという。入稿から出荷まで工程管理は多岐にわたるが、その中で着目されてこなかったのが、資材搬送や用紙セット、梱包など熟練技術者に依存している作業だ。こうした作業について、自動搬送ロボットなどを活用し、工程の自動化や見える化を進めることで印刷現場の生産性向上を目指す。

市場成長が期待されるデジタル印刷は、オフセット印刷のように版を作る必要がなく、印刷工程は3分の1以下で済む。ただオフセット印刷が市場全体の約9割以上を占めており、主流である状況は当面変わらない。オフセットとデジタル印刷が共存する印刷環境の整備が課題となってくる。

日刊工業新聞 2022年12月02日

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