AIの法対応が追いつかない…「リーガルテック」の課題
契約などの法律に関わる業務に人工知能(AI)を導入して効率化させる「リーガルテック」。利用する企業には便利な技術だが、一部に法的課題が浮上している。AIの社会実装にはさまざまな分野で既存の仕組みでは対処できない問題が生じている。リーガルテックの課題はどこにあるのだろう。(赤穂啓子)
現在リーガルテックとして提供されるのは、契約書の記述にリスク箇所や抜け漏れがあるかをAI技術(自然言語処理技術)を用いて検出する「契約自動レビュー機能」が中核。リーガルフォース(東京都江東区)など複数のベンチャー企業が提供している。
しかし、この契約自動レビュー機能が、弁護士でない者が法律事件の鑑定を行うことを禁止する弁護士法72条に抵触する懸念が浮上している。法務省が6月と10月に契約書レビュー行為が「鑑定にあたると評価され得る」「鑑定に当たると評価される可能性がないとはいえない」という見解を示した。可能性があるとしたことが問題を複雑化させた。
同サービスを利用する企業は困惑し「サービスが適法だと証明してほしい」という声が上がっている。
弁護士法72条は、多重債務者を食い物にする悪徳業者排除を目的に制定された経緯がある。AI登場は想定していない時代だ。新技術に古い法律を適用することに無理が生じている面もある。
中小企業にとって契約への対応は避けて通れない。価格転嫁など取引適正化には契約の存在が重要だ。海外企業と取引するなら、不利な契約かどうかを確認する作業は不可欠。AIが業務負担を軽減するなら普及は望ましく、活用できる方策を考えるべきだろう。
配慮すべきは、悪質事業者が、不十分なサービスを提供し、導入企業が損失を被るような事態だ。政府は早期に弁護士法とリーガルテック利用の間で懸念となる点を明確にし、企業が安心して活用できる環境を整える必要がある。
サービス開発、ガイドライン検討
リーガルテックに取り組むベンチャー企業4社は「AI・契約レビューテクノロジー協会(ACORTA)」を発足させた。代表理事の松尾剛行弁護士と専務理事の角田望リーガルフォース社長に見解を聞いた。
―協会設立の狙いは。
松尾氏 AI契約レビューが弁護士法の「鑑定」に該当するかは、確固とした判例や学説は存在しない。少なくとも現行のAI活用は、弁護士のレビューとは根本的に異なるが、どう解釈していくべきかは議論が必要だ。協会としてリーガルテックの社会への導入に必要な条件を提示し、さまざまなステークホルダーとも話し合っていきたい。
―リーガルフォースの事業には影響が生じていますか。
角田氏 利用企業から問い合わせがあるのは事実だが、法務省の見解というより、メディアの報道から心配しているようだ。あたかも既存事業を法務省が(違法と)判断したような認識が広まることに危惧している。問い合わせのあった企業には「違反ではないので安心して使ってください」と説明し納得してもらっている。
―AIが将来弁護士の仕事を奪うといった指摘もあります。
松尾氏 AIを使えば弁護士が行う判断業務を何でもできると考えるのは間違い。現行のAIは契約書にある文字情報を自然言語処理技術として解析するだけで、契約書の法的意味の解釈を提供するわけではない。言ってみればまだその程度の技術に過ぎない。むしろ法律事務所でAIレビューを活用すればさまざまな業務を効率化できる。弁護士にとって有用なサービスだ。
―リーガルテックが進展する条件とは。
角田氏 法務省の見解をよく読めば、AI利用に待ったをかけたものではないことも分かるはずだ。そもそも政府もAI技術の利用が、日本の生産性向上には必要と指摘している。協会として法解釈や判例の蓄積を踏まえ、サービスが開発できるようなガイドラインなどを作成することを検討したい。これらの活動が企業に安心して使ってもらえることにつながる。