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企業リスクが複雑化、問われる「法務DX」

人材育成・情報共有化が必要

ESG(環境・社会・企業統治)や経済安全保障への対処を受け身ではなく、デジタル変革(DX)で攻めの姿勢に変える―。その担い手となる法務・コンプライアンス(法令順守)部門の変革が問われている。KPMGコンサルティング(東京都千代田区)とトムソン・ロイター(東京都港区)がまとめた調査リポートから、複雑化する企業リスクに対し、日本企業の法務・コンプライアンス部門がどう向き合うべきかを探る。

「日本企業がグローバルで戦うには法務・コンプライアンス部門の地位を高め、経営に直結する役割を担うことが必要だ」。宮原正弘KPMGコンサル社長は、今回のリポートをまとめた背景をこう語る。トムソン・ロイターのヨンソン・バン社長も「ESGなどの社会的要請への対応(の不足)は罰則だけでなく、企業ブランドの毀損(きそん)も招く」と警鐘を鳴らす。

調査対象は国内上場企業および、売上高400億円以上の未上場企業の計422社。主にDXを中心とした組織・業務変革と、サステナビリティー(持続可能性)に関する法務・コンプライアンスの機能変化という視点で分析した。

鮮明になったのは組織のあり方だ。回答企業の69・0%が法務・コンプライアンス担当役員を設置しておらず、76・9%が人材不足を訴えるなど、人的資源への課題が浮き彫りとなった。

DXの観点での注目点は、法務業務に関するITツールの活用。64・0%の企業がリーガルテック(法律とITの融合)を「導入済み、導入を検討している」と回答した。

ただ詳細をみると、電子署名・電子契約などの部分的な導入にとどまる例が多く、案件管理を行う「マターマネジメント」の活用やデータベース(DB)化によるリスク情報の共有化が進んでいないことが分かる。回答企業の約半数はリーガルテック導入について「予算確保」や「導入後の運用検討」を課題に挙げており、DXの推進まで踏み込めていない状況が読み取れる。

企業が重視する法令順守リスクについては「職場環境」が71・1%、「個人情報管理」が59・5%、「競争法・独占禁止法」が42・7%の順に多かった。加えて贈収賄や品質不正など多様なリスクが挙げられた。また、法務・コンプライアンス部門の業務の変化として、ESGや国連の持続可能な開発目標(SDGs)関連の担当業務が増えたとする回答が44・8%に上った。同部門が注意を払う必要のあるリスクが増加する中で、期待される役割や業務が増えていることがうかがえる。

そうした多忙さもあってか、問題を有する新規事業への中止勧告を行う役割を同部門が担えている企業は全体の19・0%にとどまる。DXの推進で一連の課題を解決できるかが問われそうだ。

日刊工業新聞2022年6月9日

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