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訪日客数22.5倍も、中国人観光客の“復活”が 遠いワケ

「高付加価値旅行者」に照準
訪日客数22.5倍も、中国人観光客の“復活”が 遠いワケ

政府の水際対策が緩和されインバウンドが戻り始めている(東京・銀座)

10月から水際対策が緩和され、日本政府観光局によるとインバウンド(訪日外国人)数は、前年同月比22・5倍の49万8600人(推定値)と大幅に伸びた。足元の円安も旅行需要の喚起に寄与した。ただ、コロナ禍前は訪日外国人の3分の1を占めた中国人は2万1500人と全体の4%にとどまる。観光業界は中国人観光客の復活に期待を寄せるが、中国政府は「ゼロコロナ政策」を堅持する見通しで、多数の訪日は当面先になりそうだ。(編集委員・小川淳)

「外国人にしてみたら円安の進行で“日本割”が始まったようなもの。以前より4、5割安く日本の製品を買ったりサービスを受けられたりする」―。大手オンライン旅行会社の幹部はこう期待を寄せる。

JTBの山北栄二郎社長も18日の決算会見で、訪日旅行について「非常に強い勢いで予約や問い合わせをいただいており、さらに上昇する可能性がある」と喜びを見せた。ただ、欧米などの観光客が好調な一方、「中国が動いていない。3分の1が丸ごと抜けている」と、コロナ禍前の2019年のインバウンド数約3200万人のうち、中国人がおよそ3分の1を占めていた状況と比較した。

実際、10月の国・地域別のインバウンド数は、韓国が12万2900人と最も多く、米国5万3200人、香港3万6200人と続いた。中国は2万1500人にとどまる。

ゼロコロナ政策を掲げる中国は11日、海外からの入国者らに対する隔離期間を10日間から8日間に短縮したものの、周辺国に比べて厳しい水際対策は依然として維持する。当初は10月の共産党大会終了後にもゼロコロナ政策の見直しを発表するのではという期待があったが、そうした兆しは見えない。

前述の大手オンライン旅行会社幹部は「23年3月にも方針が公表され、5、6月に見直しがあるのでは」と楽観的な見通しを示すが、野村総合研究所未来創発センターの梅屋真一郎制度戦略研究室長は、「諸外国のように隔離措置の撤廃は数年間は期待できない可能性がある」と、こうした見方を否定する。「中国全体で見れば新型コロナウイルスのワクチンの接種率はまだ低い。隔離措置をなくせば数百万人が死亡するという予測もある。中国当局はこうした状況はとても許容できない」ためだという。

今後、中国が開発中の国産メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンや治療薬の普及、ウイルスの弱毒化など状況が劇的に変わらない限り、中国人観光客の復活は当面難しいかもしれない。

一方で観光業界は1回の旅行で1人100万円以上を消費する「高付加価値旅行者」の誘致に力を入れている。また、JTBなどはアクティビティーや自然、異文化体験を楽しむ、滞在期間が長く消費額も高い「アドベンチャートラベル」などを推進している。野村総研の梅屋室長は、「インバウンド数が減っても日本国内で消費する金額が増えることが重要だ」と主張する。

また、コロナ禍前は「オーバーツーリズム」(観光公害)が各地で問題になっていた。「観光客数が減ることで、質の高いサービスを提供できるようになる」(梅屋室長)かもしれない。

コロナ禍が収束しても、以前のように観光客数が戻るのが難しい中、これからのインバウンド政策は量ではなく質への転換が求められそうだ。

日刊工業新聞 2022年11月25日

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