金融業界でリスキリングの取り組みが広がる背景事情
金融業界でリスキリング(従業員への再教育)の取り組みが広がっている。デジタル分野の人材育成に力を入れているほか、スタートアップへの副業制度を創設する動きもある。社内人材に“起業マインド”を持ってもらい、企業のデジタル変革(DX)を加速させる狙いだ。さらにシニア層のスキルアップ支援などにも力を入れ、持続的な成長につなげる。(日下宗大)
リスキリングの「一丁目一番地」はやはりデジタル化対応だ。帝国データバンクが9月に実施したDX推進に関する企業の意識調査によると、4割以上の企業で人材やスキル、ノウハウ不足がDXの課題となっている。リスキリングに取り組む企業は48・1%で、新しいデジタルツールなどの学習が進む。
りそなホールディングス(HD)はDXを全社的に進めるため、大きく三つの区分を設けて人材教育を図っている。まずは高度なIT技能を持つ「専門部隊」。データサイエンティストなどが当たる。次にDXの旗振り役となる「本部」の担当者。DXに向けた事業企画などを担当する。そして「全社員」だ。各層ごとに最適な教育や研修を施す。
営業の最前線では取引先にデジタルサービスを提案するほか、デジタル化の相談を受けることも増えた。そこで、2019年度から全社的に取り組んでいるのが、基礎的なIT知識を測る国家試験「ITパスポート」の資格取得だ。9月末時点で取得者は4000人以上となった。
山本祥子IT企画部グループリーダーは「顧客とのキャッチボールが(デジタルの知見を)底上げするキーポイントだ」と強調する。
銀行業界では三井住友フィナンシャルグループ(FG)が21年からグループ5万人以上の全従業員に対してDX研修を実施。あおぞら銀行も21年度から全行員約2000人にデジタル教育を始めた。
社会のDXの取り組みは発展途上だが、人材育成で後れを取るわけにはいかない。りそなHDでは最適なDX人材の教育に向けてカリキュラムを考案して適宜改善する。榊原風慧(ふさと)人財サービス部担当マネージャーは「あるべき目標を設定するのは難しいが(社員に)ロードマップを示すことは大事だ」と話す。
ノンバンク業界でもデジタル化対応でさまざまな手を打つ。オリエントコーポレーションは従業員がスタートアップ企業で副業をしたり、研修を受けたりする制度を始めた。24年度までの3年間で200人に対して実施する。人事・総務グループ長の松岡英行常務執行役員は「デジタルで業務やビジネスのありよう、そして文化を変えていく」と力を込める。
もちろんDX人材の育成にも着手。オリコは従業員3000人への研修を始めた。カリキュラムの策定には日本IBMが海外の事例を紹介するなど関与して、より効果的な教育につなげる。
加えてシニア層に対するリスキリングも充実させる。オリコの業務を体得している強みを生かせるように、新たな知識を得られる機会を提供する。例えば公認内部監査人(CIA)の資格取得を支援する。デジタル分野以外のリスキリング環境の整備も重要だ。シニア層に対しても「活躍の場を広げていく必要がある」と松岡常務執行役員は指摘する。