ニュースイッチ

地熱開発が最先端技術で入る新たなフェーズ

地熱発電 新たなステージへ(上)

日本の地熱資源量は2347万キロワットで世界3位。国は2030年に地熱発電の設備容量で現状比約2・4倍に当たる150万キロワットの実現を掲げ、国立公園内での開発可能性調査に着手。数万キロワット規模の大型地熱発電の実現に向けた取り組みが活発になってきた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は地中のマグマ層を活用した次世代再生可能エネルギーとなる超臨界地熱開発について、23年度以降に試錐井(しすいせい)の掘削を行う計画。日本の地熱開発は最先端技術の投入で新たなフェーズに入る。

国内の地熱発電設備容量は21年末で61万キロワット。19年に23年ぶりの大型案件として秋田県の山葵沢地熱発電所(設備容量4万6000キロワット)、岩手県の松尾八幡平(同7500キロワット)が稼働した。だが、全体では再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)前から数万キロワット増強した程度にとどまっている。

柳津西山地熱で、川からの水を地熱層へ投入する涵養井

こうした中、国は地熱発電の大幅導入増に向け、開発にブレーキをかけてきた各種規制を緩和しつつある。自然公園法では地熱資源の80%が存在する国立・国定公園における「第2、3種特別地域内の開発を原則認めない」との規制を廃止。地熱開発のための保安林の転用解除も迅速化され、環境アセスメントも円滑化する措置がとられている。

初期調査から操業開始まで10年以上かかる高リスクの地熱開発事業へ企業の参入を促進するため、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は初期調査や探査・開発事業で基礎調査データ提供や助成金、出資・債務保証などの資金支援を10年間で80超のプロジェクトに提供。うち7件は開発フェーズに入っている。

22年度は北海道・函館市でオリックスによる国内最大級のバイナリー発電(設備容量6500キロワット)が運転に入る。これに続き、29年度までに稼働を目指すプロジェクトは岩手県・安比地熱発電(同1万4900キロワット)、秋田県湯沢市ではカタツムリ山発電(同規模)のほか環境アセスメント中の案件がある。ただ、数万キロワット級の大規模プロジェクトが見えていない。

そこでJOGMECは地下資源開発のリスクを低減し、事業者が開発しやすい環境を提供する新たな調査を21年度から開始。国立・国定公園内を対象に全国30カ所で地熱ポテンシャル調査を進めている。「各エリアで2000メートル級のボーリングを実施し、地熱層を確認する。調査結果を基に23年度以降、民間企業の案件組成・事業化につなげる」(髙橋健一地熱事業本部長)とする。

また、福島県の柳津(やないづ)西山地熱発電所(福島県柳津町)では地熱蒸気減衰で発電量が低下。運転開始時に比べ出力が3万キロワットと半減しているが、この蒸気量の回復を目指し、国内で初めて河川水を人工的に涵養井に注水して生産井の蒸気量を回復する「人工涵養」の実証を20年夏から進めてきた。これまでに蒸気量の回復を確認しており、国内各地の地熱発電所における減衰対策として期待できそうだ。

JOGMECは超臨界状態の二酸化炭素(CO2)を熱媒体として発電する革新技術開発にも着手。地下熱水の代わりにCO2流体を活用し、地熱発電を目指す。基礎研究事業を大成建設、地熱技術開発(東京都中央区)に委託、50年に実現する予定だ。

日刊工業新聞 2022年10月18日

特集・連載情報

地熱発電 新たなステージ
地熱発電 新たなステージ
日本の地熱資源量は世界3位の2347万KWを誇ります。国は2030年に地熱発電の設備容量で現状比約2.4倍に当たる150万KWの実現を掲げており、数万KW規模の大型地熱発電の実現に向けた取り組みが活発になっています。

編集部のおすすめ