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初音ミク、ファッションのためのロボット、マツコロイド―ロボットと人間の関係を探る

「ロボット未来フォーラム」で語られたこと。(前編)
初音ミク、ファッションのためのロボット、マツコロイド―ロボットと人間の関係を探る

左から、伊藤 博之氏 、きゅんくん、吉無田 剛氏


「日本のタレントの中で一番、もう一人いたらインパクトがあるのがマツコ」


吉無田剛氏(以下、吉無田):初めまして、日本テレビの吉無田と申します。2015年の月から9月まで土曜日の夜11時から「マツコとマツコ」という世界初のアンドロイドバラエティ番組のプロデューサーをしていました。世界初のアンドロイドバラエティって銘打って始めた番組なんですが、2014年12月にタレントのマツコ・デラックスさんをモデルにした「マツコロイド」が完成しました。もともとは大阪大学の石黒浩教授と完成する1年前に出会いまして、石黒先生の研究室に行った時にものすごい精巧なアンドロイドをみて、これはテレビ番組として新しい何かができるなと直感したというのがきっかけです。

 なんでマツコさんのアンドロイドを作ろうと思ったのかは、日本のタレントの中で一番、もう一人いたらインパクトがあって、掛け合いとして面白い人として、石黒先生の研究室に行った瞬間に思いつきましてですね。

 2014年の年末に特番を放送し、インパクトがあったのを受けて、すぐに2015年の4月からレギュラー放送に。アンドロイドってどこまで人間に近づけるのかというのを毎週、いろいろな実験をしました。実際石黒先生にも「この番組があったおかげで論文が30本くらいかけそうだ」とお褒めの言葉をいただきました。例えばニュースキャスターになれるのかとか?漫才はできるのか?みたいなことを一個一個挑戦して、スタジオでマツコさんにそのVTRを観てもらって、隣にはマツコロイドが座って。

 番組ご覧になっていただいた方はどうやって動いているか疑問に思った人もいるかもしれません。マツコロイドの動かし方は大きく3つあります。
まず1つが、スタジオでマツコロイドが動いているとき、別室でマツコロイドを操作するディレクターがいまして、ディレクターの隣にものまね芸人のホリさんが座ってまして、ホリさんがマツコさんの物まねをして、本物のマツコさんと掛け合っていくというやり方。

 テレビ見た子供たちが、マツコさんが本当に二人いるんじゃないかと錯覚するくらい、ホリさんの物まねが上手かった。声の質だけではなくて、マツコさんだったらこう切り返すだろうなという部分が再現されていた。ホリさんの匠の技術があってこそ成り立っていました。

 もう1つ、アンドロイドの技術として色々な可能性秘めているなと感じたのは音声ですね。マツコさんの音声ソフトを作りました。文字を打ち込めばマツコさんの声を借りなくても、自然な発話ができるというふうなシステムによって、ロケの幅がぐんと広がりました。マツコさんお忙しいものですから、スタジオ収録以外にロケに連れ出すのはなかなか難しいですが、これがあると、いろいろなロケができて、モデルとか猿回し、漫才、コントに挑戦などマツコさんがまったく関わらず、僕らが勝手にマツコさんが言いそうな文章を作って実験をしたのが2つめです。

 3つ目は、マツコさんが普段はいかないようなところに派遣して、遠隔操作する。マツコさんは東京のスタジオにいて、本人の声をインターネット回線で飛ばして声を遠隔操作する。

 例えば占いの館にマツコロイドを置いて女子高生の人生相談をしました。マツコさん本人が相談に乗ってくれると考えるときわめて人間的ではあるんですけど、これもゆくゆくはカウンセリングに役立つのではと石黒教授と話しました。医師を目の前にするとちょっと緊張してしまうような人もアンドロイドがワンクッション挟まることによって、人格を感じないのでより本音で話せるのではないか?カウンセリングや医療の分野でこれは非常にありえるんじゃいないかと。

 半年間で30とか40くらいの実験をしていったのですが、本当に可能性は無限に広がっていくなと。実際、この番組をやった直後に色々な芸能事務所から、アイドルのアンドロイドを作れないかと、石黒先生を紹介してくれという問い合わせがありましたので。エンターテイメント界はアンドロイドを使って面白い遊びを提供していけるのではないかと思っています。

 またマツコロイドが雑誌のモデルをやりました。モデルって7時間8時間とかすごい長い時間をかけて洋服を着替えたりとかして、なかなか大変な撮影になるんですけど、アンドロイドがそういうのもできればかわりにやってくれるようになる。介護とか人の役に立つ分野でも役立っていく。
 何年後になるかが分からないんですけど、AIとかが拡大していけば人間のパートナーとして一般家庭にも普及していくというのが、半年やってみての僕の感想です。

――お三方に共通する点ってなにかなと考えた時に、人間とロボットを近づけたり、その関係性を考えたり、機械と人間の関係だったりというキーワードがあると思います。
 伊藤さんはボーカロイドで人間の声を機械化して、それを人間に近づけてを歌を作ったり。きゅんくんは機械を人間に近づけて、新しいものが生まれたり、関係性を考えようということをやっていこうと。吉無田さんはいろいろな現場に行ってアンドロイドに人間の活動に挑戦させることで、アンドロイドの可能性を考えていらっしゃいます。

(後編は1月31日更新)
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
前編が自己紹介で終わってしまってすみません。ですが自己紹介の中にも各人のスタンスや取組みの面白さが詰まっていましたので、ほぼ話した内容そのまま掲載しました。後編はいよいよディスカッションに入ります。

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