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インバウンド鈍化?真価問われる時計業界―メーカー3社インタビュー

インバウンド鈍化?真価問われる時計業界―メーカー3社インタビュー

左より、中村氏、戸倉氏、増田氏

 近年、時計業界をけん引してきたインバウンド(訪日外国人)需要の拡大が、鈍化し始めた。大手時計メーカーによる訪日客向けの販売は、昨秋から伸びが緩やかになっている。2020年まで拡大は続くものの、今後は“安定期”に入るとみられる。メーカー各社はインバウンド需要に対応しながらも、収益のベースとなる日本人向けの販売、そして海外展開をあらためて強化している。各社のトップに戦略を聞いた。

セイコーホールディングス社長・中村吉伸氏


■北米市場で確実に成果
―腕時計の販売状況はどうでしょう。
「国内は堅調、海外は少し苦戦といったところ。ただ、為替の影響などもあり海外でも業績は良い。『グランドセイコー(GS)』『アストロン』『プロスペックス』の3大ブランドが定着し、収益を押し上げている。今年も国内向けはさらに伸びる見込みだ。政策効果などにより若者を含め消費者の目が高級品に向くようになっている。少なくとも2020年までは、こうした流れが続くのではないか」

―インバウンド需要の鈍化が指摘されています。
「15年の9月ごろから伸びが緩やかになっている。正確な理由はまだ分からない。中国経済の減速により、旅行者が時計より家電など生活必需品を買うようになっているのかもしれない。とはいえ、今の為替水準が続く限り激減することはないだろう。今後も一定の需要が見込める」

―海外での苦戦とはどんなことですか。
「注力している北米での伸びが、想定した水準に達していない。北米では08年のリーマン・ショック前後に失ったシェアを取り戻そうとしているが、流通網の回復に多少時間がかかっている。だが焦ってはいない。商品の投入、流通の開拓、広告宣伝の全てを戦略的に実行していく。北米は世界最高峰の巨大市場。一方、欧州市場が急速に拡大するとは思えない。中国をはじめアジアの市況が厳しい中、北米で確実に成果を出すことが重要だ。直営の高級時計専門店『セイコーブティック』も拡充していきたい」

シチズンホールディングス社長・戸倉敏夫氏


■米ブローバとシナジー
―時計事業は内需がけん引役です。
「女性向けの『クロスシー』、高級路線の『カンパノラ』といったブランドの伸びが目立っている。また、今期から販売している全地球測位システム(GPS)電波対応『F900』モデルも好調だ。国内の需要は底堅く、17年3月期も良い状態が続くだろう。引き続き魅力ある商品を発信し、シェアを高めていきたい」

―インバウンド需要についてはどうでしょう。
「インバウンドに限って言えば上期ほどの勢いがみられないのが現状。依然として伸びてはいるが、成長率は低下ぎみだ。まだはっきりした原因が分かっておらず、分析する必要がある。ただ、伸びていることは間違いないので悲観はしていない。中国の『春節』などに伴う需要増にはしっかりと対応していく」

―海外向けは。
「北米での販売が順調に伸びている。上期は円ベースで前年同期比約2割増の実績が出た。中国などアジアの市場は良くない状態が続いているため、戦略を少し変えて北米市場に一層注力する。まず08年に買収した米ブローバ・コーポレーションとのシナジー効果をもっと出していきたい。例えば物流施設や間接部門などは、シチズン側とまだ分かれている。できるだけ効率的な体制になるよう、ブローバ側の経営にも積極的に関与していく。また長期的にみればアジアも再び伸びるはずだ。宣伝や流通網の開拓は継続しつつ、当面は市況の回復を待つことになる」
日刊工業新聞2016年1月25日 機械・ロボット・航空機2面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
時計業界を取り巻く最近のトピックとして「スマートウォッチ」が挙がりますが、時計の機能を超えてさまざまなことができる、ということより「高級感」「時計としての機能の拡充」という点がまだしばらくは評価されていくように思わせるインタビューでした。

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