ニュースイッチ

【ディープテックを追え】わさび栽培にイノベーション、自動栽培と栽培期間短縮を狙う

#97 NEXTAGE

閉鎖空間で野菜などを生産する、植物工場が普及してきた。この潮流に乗り、NEXTAGE(ネクステージ、東京都目黒区)はわさびの自動栽培モジュールを開発する。同社は栽培期間を短縮できる栽培方法と栽培モジュールを組み合わせ、実現を目指す。

生産量は減少続く

わさびは澄んだ水のある冷涼な土地で生育する。日本では静岡県や長野県で栽培される。ただ、気候変動によるわさび田への被害や水源の枯渇、従事者の減少などの課題を抱えている。それに並行するように国内のわさび生産量は減少が続く。農林水産省の「特用林産物生産統計調査」によれば、2020年のわさび生産量は約2000トンと、05年に比べ半分以下まで落ち込んでいる。

こういった課題がありながら、事業としてわさびの自動栽培を手がけるのは難しかった。冷涼な土地での生産に限定される上、2年間ほどの栽培期間が必要なためだ。同社はこの栽培期間を短縮しつつ、自動栽培できるモジュールでこの課題の解決に挑む。

早く育つメリットも

技術の肝は栽培に適した環境を制御する点だ。温度や水の流速などの環境データや植物の様子から、わさびの栽培に適した環境を制御する。センサーなどの計測器のデータに加え、カメラから取得した葉や茎を画像から、わさびの生育状況を予測する。

20度C以下の気温が最適とされるわさび生産において、中村拓也代表は「室温でも育てられる」と自信を見せる。水温や水流など、気温以外の指標をコントロールすることで、温暖な場所でも育てられるようになるという。またこの手法を使うことで、10カ月で50グラムのわさびを育成できるなど、促成栽培のメリットもある。

わさび栽培の様子(同社提供)

同社はこの栽培方法と栽培モジュールを統合して、23年から販売する。既存の20フィートや40フィートコンテナに栽培に必要な計測器などを搭載して提供する。製品化に向けてはトヨタ紡織ヤマハ発動機などと協力する。同時に自社でも同モジュールを使い、わさびの栽培を始める。海外への展開も狙う。機器の販売だけでなく、栽培方法の普及を目指す。

中村代表

将来は消費地の近くで栽培する「モバイル農業」やわさび以外の農作物へ技術を生かす。中村代表は「世界中で同じレシピを使い、地域の需要に合わせた栽培できる環境を実現する」と意気込む。

〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】
ニュースイッチオリジナル

特集・連載情報

ディープテックを追え VOL.12
ディープテックを追え VOL.12
宇宙船を開発する米スペースX、バイオベンチャーのユーグレナ-。いずれも科学的発見や技術革新を通じて社会問題の解決につなげようとする企業で、こうした取り組みはディープテックと呼ばれる。日本でディープテックに挑戦する企業を追った。

編集部のおすすめ