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電帳法を追い風に…ペーパーレス化で逆境の事務機器メーカーがITに軸足

電帳法を追い風に…ペーパーレス化で逆境の事務機器メーカーがITに軸足

リコー「スクラムパッケージ」の活用例。建設現場でのDX促進に貢献する

事務機器(OA)各社が事業の軸足を複合機や消耗品の販売、保守・点検といった従来サービスから、ITソリューションに移そうとしている。ペーパーレス化や在宅勤務の定着などに伴い、オフィスでの印刷需要の伸びを見込みにくいことが背景にある。中堅・中小企業はデジタル化が大手企業に比べて遅れていると考えられてきたが、直近では積極化する会社も増えており、新規顧客の開拓を図るOA各社の追い風になりそうだ。(高島里沙)

2022年版の中小企業白書によると、新型コロナウイルス感染症が流行する前の19年時点では、6割以上の企業がデジタル化による業務効率化やデータ分析などに取り組んでいなかった。だが20年にはデジタル変革(DX)積極派と消極派の割合がほぼ同水準となり、21年時点では従来全くデジタル化に取り組んでこなかった消極派の企業がDXを進展させた。中小企業においても、コロナ禍がDXを促した側面が統計から見て取れる。

ただ蓄積したデータを活用して販路拡大につなげるといった、深い段階までデジタル化の取り組みを進めている企業は約1割にとどまるのが実情だ。OA各社は中小企業のDX市場にさらなる拡大の余地があるとみて、関連ソリューションの提供に力を注いでいる。

リコーは、中堅・中小企業向けに「スクラムシリーズ」と呼ばれる2種類のDXソリューションを提供する。中小企業向けの「スクラムパッケージ」は、業種業務別にパソコンやサーバー、ネットワーク機器などの情報通信技術(ICT)機器や業務ソフトウエアなどを一括で提供。中堅企業向けの「スクラムアセット」は、システムエンジニア(SE)が顧客ごとに個別のシステムを構築する。

スクラムパッケージは17年10月に発売。建設業や運輸業、不動産、観光、製造業など9業種3業務向けに154パックをそろえる。リコーの販売会社であるリコージャパンの木村和広社長は、自社の優位性について「17年からの約4年半にわたる取り組み実績と社員のデジタルスキル向上にある」と強調。地域密着型の提案や販売ができる点も強みという。

だが、世界的な部品や半導体の供給不足の影響を受け、ICT機器が不足するという事態に陥った。そのためスクラムパッケージの22年4―6月期の販売本数や売り上げは前年同期比で減少した。10月以降は回復を見込むとしている。今後は、機器に依存しないスクラムシリーズの販売を強化する方針。

中堅企業向けのスクラムアセットは、製造業と流通業の重点2業種3業務を中心に82モデルをそろえる。仮想化やセキュリティー関連、システム導入後の運用代行などが好調に推移。22年4―6月期のスクラムアセットの売り上げは前年同期比約2倍となった。

今秋には、販売を手がけてきたサイボウズの業務管理クラウドサービス「キントーン」をベースにしたリコー版のキントーンを投入予定だ。社内外のアプリケーション(応用ソフト)を組み合わせて提供するための統合基盤「リコー・スマート・インテグレーション(RSI)」を拡大する。リコー版キントーンやスクラムシリーズの展開により、25年度に世界売上高500億円規模のビジネスを創出する計画だ。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(東京都江東区)も、中堅・中小企業向けにパッケージ化したDXソリューション「ブリッジ・ディーエックス・ライブラリー」を5月に投入した。当初は建設・製造業、医療機関などを対象に20種類のサービスを提供。7月には、より広範囲の課題に対応するため品ぞろえを約5倍の103種類まで拡大した。例えば建設業向けでは、測量や積算、品質管理情報などの工事情報を一元管理することによって施工管理の効率化につなげる。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン「ブリッジ・ディーエックス・ライブラリー」の建設業向け事例。施工管理を効率化できる

同社は、大手企業や官公庁向けサービスで培った知見やノウハウがある点が強み。だが蓄積した業種別ノウハウなどは中堅・中小企業にも転用でき、これまでの成功事例を生かせる。従来、中小企業にもソリューションを提供してきたものの、あらためてパッケージ化して訴求を始めた格好だ。

5―7月に全国で顧客向けセミナーを開催したところ、3000人が参加した。中小企業のDXに対する関心は高く、5―6月の売り上げは前年同期比で約30%伸びている。特に適格請求書等保存方式(インボイス制度)や電子帳簿保存法(電帳法)などの旬なテーマに関連する商材の売り上げは同3倍になったという。

ITソリューションベンダーにとって、インボイス制度や電帳法といった法改正は追い風と言える。リコーも22年度後半以降、法改正対応を担う企業のバックオフィス向け商材に力を注ぐ考えだ。OA各社はこうした時流を捉え、新規顧客の開拓にどれだけつなげられるかが問われる。

他方、OKIはDXに関する新戦略を策定した。社内でDXを強化し、得られた技術や業務プロセスを社外に製品やサービスとして提供することで、DXソリューションや商品、サービス提供の加速を図る。

新しいソリューションの創出に向けて、OKIの人工知能(AI)エッジ(現場)コンピューターなどを活用し、交通、防災、建設などの社会インフラを高度化する。また、大手システム構築(SI)事業者をはじめとする企業との共創でDXを推進。22年度に売上高に占めるDX領域の割合を30%超(19年度は15%)に高める計画だ。

テレワークの定着で自宅や遠隔勤務拠点でのプリンターの導入は増える一方、オフィスでの印刷量の回復は鈍化傾向にある。また、印刷需要がコロナ禍以前の水準まで回復する見込みは薄い。こうした環境変化を踏まえ、従来の複合機ビジネスからソリューション事業へかじを切って収益源を多様化できるかが、OA各社の成長のカギを握る。

日刊工業新聞 2022年8月16日

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