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自動運転レベル4、解禁迫る「移動サービス」の課題

自動運転レベル4、解禁迫る「移動サービス」の課題

茨城県境町では自動運転車が1日18便で定常運行している。運賃はとらない

特定条件下で完全自動運転が可能な「自動運転レベル4」相当の移動サービスの開始が迫る。政府は2023年3月にも改正道路交通法を施行し、レベル4の公道走行を解禁する方針だ。25年をめどに40カ所以上、30年までに100カ所以上で自動運転移動サービスを実現することを目標に掲げる。まずは交通量の少ない限定区域で開始する計画で、運転手の人手不足の解消や人件費の削減につながることが期待される。当面は収益化が課題になりそうだ。(石川雅基)

【改正道交法施行】30年まで100カ所以上目指す

23年3月にも運転手のいない自動運転移動サービスが始まる見通しだ。地域住民や観光客の移動手段としての活用が見込まれる。

新制度では都道府県の公安委員会が、サービス提供する事業者の運行計画を審査して許可を与える。運転者のいない自動運転を「特定自動運行」と定義し、サービス事業者には運行を遠隔監視するか、車両に乗車する「特定自動運行主任者」の配置を求める。

公安委員会は、事業者に許可を与えるかどうか判断する上で、市町村長や国土交通相らの意見を事前に聴くことになっている。自治体の考えや交通特性を反映できるようにする狙いだ。国交省に出向して道交法改正に携わった森・濱田松本法律事務所の佐藤典仁弁護士は「市町村長が地域のベネフィットを最も判断できる」とした上で「事業者には住民の理解を十分把握することが求められる」と強調する。

すでに福井県永平寺町や羽田イノベーションシティ(東京都大田区)などのエリアで、レベル3以下で自動運転サービスが実施されている。両エリアともに新制度の開始に合わせてレベル4の運行が始まる見込みだ。

現在、永平寺町では同町が運営主体(実際の運行は外部に委託)となり国内で唯一、レベル3で公道を運行するサービスを行っている。主に観光客が利用している。時速12キロメートル程度で走行する自動運転車3台を遠隔監視者1人がみている。緊急時には遠隔監視者が対応する必要があるが「これまでの運行で緊急事態はなかった」(同町担当者)という。

羽田イノベーションシティでは、20年9月からボードリー(東京都港区)や日本交通などがサービスを展開する。仏ナビヤの車両を使って公道を時速12キロメートル程度で走らせている。こちらも「これまでトラブルなく運行してきた」(ボードリー)と実績を強調する。

政府はまず信号機がなく、人通りの少ない場所からレベル4に引き上げることを想定する。経済産業省製造産業局自動車課ITS・自動走行推進室の福永茂和室長は「バス高速輸送システム(BRT)のように限定区域を走るケースからサービスを開始することになる」とした上で今後「自動運転できる走行条件『運行設計領域(ODD)』を類型化することで横展開を図っていきたい」と方針を示す。

国内の自動車メーカーも自動運転移動サービスの開発に動いている。ホンダは20年代半ばにも東京都心でサービスを始める目標を掲げている。「運賃はタクシーとバスの間」(ホンダ)を想定する。4月には国内でタクシー事業を手がける帝都自動車交通(東京都中央区)、国際自動車(同港区)とサービス設計や役割・責任分担の在り方などについて検討する基本合意書を締結し、着々と準備を進める。

【乗客の安全を遠隔で見守る】危険箇所、走行データから自動設定

新制度では遠隔監視者に事故時の対応を義務付けており、「乗客の安全を遠隔で見守る運行管理システムが重要」(ボードリーの佐治友基社長)となる。コスト面から1人で複数台を監視する体制が一般的になると予想される。このため効率的に遠隔監視するための技術やサービスへのニーズが高まる見通しで、各社が開発を進める。

ボードリーは、乗客の動きをAIで分析し、危険な時は自動アナウンスで注意喚起するシステムを開発した(ボードリー提供)

ボードリーは車内カメラの映像から乗客の行動を人工知能(AI)で即時に分析する機能を開発し、運行管理管理システムに搭載した。危険な行動を検出した際は乗客に自動アナウンスで注意喚起する。

同社は120件以上の実証実験に参画した実績を持ち、羽田イノベーションシティのほか、茨城県境町で定常運行を支援している。現在は1人が3台程度を遠隔監視しているが、同機能を活用することで「10台程度まで増やせるようになる」(同社の佐治社長)と力を込める。

ZMP(東京都文京区)は、走行ルート上で事前に危険箇所として設定された場所に車両が差しかかったことを、遠隔監視者に自動で知らせて注意を促す機能を開発中だ。危険箇所は過去の走行データから自動設定することも可能。手がけている運行管理システムへの搭載を目指している。

一方、多くの車両を1人で遠隔監視すると車両トラブルが起きた際、他の車両をみることができなくなる可能性もある。そこで損害保険ジャパンは、遠隔地から自動運転車のトラブル対応を支援するサービスの開発に乗り出した。オペレーターが遠隔で車両を監視し、緊急時にサービス事業者の遠隔監視者が対応できない場合、代わって対処する。

1人の遠隔監視者が複数車両をカバーする体制が一般的になりそうだ(福井県永平寺町)

これまでに実証実験として車両操舵(そうだ)や乗客の安否確認、緊急通報支援、代車・レッカー手配などを行ってきた。「オペレーターは自動運転車の状況をデータで把握できるので、トラブル時に能動的に対応できる」(損保ジャパンリテール商品業務部自動運転タスクフォースの新海正史リーダー)という。

【普及へ収益性課題】創意工夫・他団体と連携必要

今後、自動運転移動サービスの普及に向けて課題となるのが収益性だ。特に郊外や過疎地など利用者が限られる場所で展開するケースでは、収益を確保することは簡単ではなく、ビジネスモデルを工夫する必要がある。

ボードリーは茨城県境町での定常運行に5年で約5億円の費用を見込んでいるのに対し、既に8億円を超えて地域への経済効果が上がっているという。運賃を取らないことで利用者を増やし、その分を移動先で消費してもらっている。「自動運転車を走らせることによる経済波及効果やスポンサー収入などによって、公共交通機関の新たな事業モデルを構築したい」(ボードリーの佐治社長)と将来を見据える。

経産省の福永室長も「自動運転だけで考えるのではなく、MaaS(乗り物のサービス化)と組み合わせることが重要」と指摘する。持続可能な移動サービスの構築に向け、事業者の創意工夫や他団体との連携が一層求められそうだ。

日刊工業新聞2022年8月12日

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