環境・エネルギー問題解決へ、注目集まる「膜技術」の現在地

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分離膜を使ったアンモニア濃縮装置。工業廃水処理への実装を想定

世界的な水不足やカーボンニュートラルへの対応策として、膜を使った分離技術に注目が集まっている。神戸大学の先端膜工学研究センターは、海水淡水化膜や有機溶媒分離膜などについて、基礎から社会実装まで見据えた研究を進める。混合物から目的の物質を取り出す分離は、膜を使えれば常温で分離ができるなど、大きな省エネ効果が期待できる。同センターは膜技術で環境やエネルギー問題の解決を目指す。(大阪・友広志保)

先端膜工学研究センターは2007年設立で、19年に全学組織へと改組された。「国内初で唯一の総合的な膜工学拠点」(松山秀人センター長)という。

東レや東洋紡、日東電工と、日系企業が世界でも強みを持つ海水淡水化膜などの研究開発を進める。人口増加や気候変動などを背景に需要が高まっており、逆浸透(RO)膜が多く使用されている。

一方、先端膜工学研究センターが注力するのは、RO膜と比べエネルギー消費量を約4分の1に低減できる正浸透(FO)膜だ。同センターはFO膜による海水淡水化をさらに発展させ、エネルギーがほとんどかからない水処理システムの研究開発を進めている。

仕組みはこうだ。FO膜による海水淡水化は海水と、海水よりも濃度が高い駆動溶液を膜で隔て、駆動溶液側に真水を引き抜く。駆動溶液と真水の分離は熱で2層に分けることで行うが、ここに太陽熱を使用することで、エネルギー使用をほとんどゼロにできるという。

RO膜以前の海水淡水化は海水を熱する「蒸発法」が主流だった。蒸発法は多大なエネルギーを要するため、膜による淡水化に置き換わってきた経緯がある。同様の流れは化学プラントにも訪れており、松山センター長は「蒸留を膜に置き換えようとしている」と明かす。

中空糸の製造装置

化学工場では沸点の違いを利用し、混合物内の特定の物質を蒸発させて分離する「蒸留」が行われる。日本では化学工業におけるCO2排出のうち、約40%が蒸留工程で発生している。

カーボンニュートラル達成のため、化学工業では蒸留のCO2削減が大きな課題となっている。反応や抽出など化学品製造時に多用される有機溶剤を膜で分離できれば、エネルギー使用を格段に減らせる。同センターは有機溶剤の逆浸透膜の研究開発に注力しており、実用化できれば、エネルギー消費量は従来の100分の1程度に抑えられると試算する。

そのほか、カーボンニュートラルの観点から注目度が高いCO2分離膜の研究開発も進めている。CO2だけと反応する物質を膜内に入れ込み、CO2透過の選択性と速度を両立できる特徴的な分離膜だ。

さまざまな省エネにつながる膜分離技術だが、松山センター長は「〝創エネ〟にもつながる」と明かす。従来はコストをかけて処理していた産業廃水などからアンモニアを取り出し、資源として使用するための膜分離技術の開発も進んでいる。環境・エネルギー問題の解決に向け、膜工学の発展につながる研究開発を主導する構えだ。

日刊工業新聞 2022年6月20日

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