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燃焼機器ビジネス維持へ「アンモニア燃料」に挑む重工大手、立ちはだかる課題

火力発電の環境負荷低減
燃焼機器ビジネス維持へ「アンモニア燃料」に挑む重工大手、立ちはだかる課題

IHIはJERAの碧南火力発電所でアンモニアの混焼を実証する

重工業大手が、新エネルギーとしてアンモニアの活用を目指す政府戦略の下で、関連機器などの事業化に動いている。石炭火力発電にアンモニアを混ぜて燃焼させ、環境負荷を下げるのが主な利用形態だ。各社は混焼のための機器の技術開発や実証に取り組む。石炭火力発電のアンモニア混焼への転換が進めば、燃焼機器ビジネスを伸ばせる。再生可能エネルギーによるクリーンな製造などのサプライチェーン(供給網)構築もカギとなる。(戸村智幸)

「一番大きいのは石炭火力、ガス火力への混焼比率を上げること。最終的には専焼を目指す」―。アンモニアのサプライチェーン構築を目指すIHIの井手博社長は、力を込める。IHIはアンモニアについて、火力発電への混焼などの用途で使われる燃料利用に着目。自社のアンモニア事業では、燃焼に用いる機器事業を中核に位置付ける。

アンモニアは現状、肥料や化学製品の原料として使われているが、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないため、将来はクリーンエネルギーとして利用が期待される。水素が原料のため、水素のエネルギー利用の一形態でもある。

政府は2021年に決めた第6次エネルギー基本計画で、30年度の電源構成のうち、水素とアンモニアの発電で1%と初めて明記した。だが足元では、21年度版エネルギー白書によると、20年度の電源構成で石炭火力は31・0%、液化天然ガス(LNG)火力は39・0%を占める。火力発電への依存度低下は、簡単ではない。

こうした背景により、石炭火力発電にアンモニアを混ぜて燃焼することが、温室効果ガスの排出削減策として期待されている。その燃焼技術を担うのが重工業大手だ。

東京電力ホールディングスと中部電力の折半出資の発電会社JERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市)。総出力は410万キロワットで、国内最大の石炭火力発電所だ。IHIはJERAと共同で、同発電所の4号機(出力100万キロワット)で23年度からアンモニアを20%混焼する実証を始める。大型の石炭火力での大規模混焼は世界初という。当初予定より約1年前倒すと5月に決めた。

IHIは発電用ボイラ内部のバーナーを改造し、石炭だけでなくアンモニアを混ぜて燃焼できるようにする。詳細設計と据え付け工事を経て、混焼を始める。事故の想定や対策など安全性の基準作りにも取り組む。

また、24年度までに50%以上の混焼が可能なバーナーを開発し、実装できるか判断する。実装する場合、28年度までに50%以上の混焼を始める計画。

阿波野俊彦ソリューション統括本部アンモニアバリューチェーンプロジェクト部主幹は「火力発電の脱炭素を図る上では、アンモニア利用が最もコストを安くできる」と実証の意義を強調する。

混焼の実証とは別に自社で、アンモニアのみの専焼にも取り組む。火力発電のボイラのバーナーで、窒素酸化物(NOx)排出を抑えた専焼の実証に成功した。ガス火力発電に用いるガスタービンでも、液体アンモニアのみで、温室効果ガスを99%以上削減して燃焼し、発電することに成功した。いずれも本格実証・実用化を目指す。

将来、火力発電への依存度低下のため発電所廃止が進めば、重工業大手が手がけるボイラやガスタービンのビジネスは先細る。これに対し、火力発電をアンモニア混焼や専焼に移行して低炭素化し存続する動きが進めば、混焼・専焼対応機器への更新需要が生まれる。

三菱重工業もJERAと共同で、石炭火力発電へのアンモニア混焼を実証する。24年度までに専焼が可能なバーナーを開発し、実機での実証の計画を策定する。JERAの持つ三菱重工製のボイラで実証できると判断すれば、28年度までに50%以上の混焼を計画する。

川崎重工業は沖縄電力などと、沖縄電の具志川火力発電所(沖縄県うるま市)で、石炭火力へのアンモニア混焼について22年度中まで事業性を調査する。25年度以降の実証を検討する。再生エネからアンモニアを製造する計画だ。

製造から利用、供給網構築必要

アンモニア燃料への対応で燃焼機器ビジネスを維持したい重工業大手だが、課題はある。

一番はアンモニアをめぐり、製造から利用までのサプライチェーンを構築できるかどうかだ。政府も「アンモニア社会」の実現に向け、20年に「燃料アンモニア導入官民協議会」を立ち上げるなどし旗を振る。

貿易統計および経済産業省生産動態統計年報によると、日本での原料用アンモニア消費量は19年に約108万トンだった。国内の電力大手の全ての石炭火力発電所でアンモニアを20%混焼すると、年間約2000万トンのアンモニアが必要になる。世界全体の貿易量に匹敵する。燃料としての国内需要は30年に300万トン、50年に3000万トンと想定される。現状では供給量がまったく足りていない。

アンモニアの製造適地は海外だ。海上輸送を含めたサプライチェーン構築が必要となる。再生エネで発電した電気で、水を分解して製造する水素が原料のものをグリーンアンモニアと呼び、特に環境負荷が小さい。このグリーンアンモニアの供給量を増やせるかがカギ。IHIはグリーンアンモニアを得るための元となるグリーン水素製造の実証プラントの設計・調達・建設(EPC)を豪州で受注しており、サプライチェーン構築の第一歩にする。

まだ海外でアンモニア燃料の導入を推進する国は少ないと言われる。日本政府・企業が、アンモニア燃料の世界的な普及を促していけるかも問われる。

混焼技術をアジア展開

日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員・小山堅氏

第6次エネルギー基本計画に水素・アンモニアで1%と盛り込まれた意義は大きい。控えめな数値との見方もあるが、50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた出発点だ。

アンモニアの国際的なサプライチェーン構築には、さまざまな企業の関与が必要になる。重工業大手のメーカーとしての技術や経験を生かすことは重要だ。彼らの貢献がなければサプライチェーンを構築できないので、欠かすことのできないピースだ。

カーボンニュートラルへのトランジション(移行)のコストを最小化できるのではという発想で、アンモニアへの関心が高まったと思う。石炭火力発電は電源構成の中で、一定の重要性がある。日本だけでなく、アジアなど新興国もだ。

新興国の石炭火力発電所は稼働からそれほど時間がたっていない。それを全て廃止し、再生エネに移行するのは簡単ではない。石炭火力発電を活用しながらCO2排出を大幅削減するために、アンモニアの混焼が手段として浮かび上がった。重工業大手が混焼技術を日本で蓄積し、アジアに展開する流れを築くことに期待したい。日本と同時に、アジアの問題でもある。(談)

日刊工業新聞2022年7月22日

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