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存在感高まる「燃料アンモニア」見えてきた内閣府主導・研究開発の出口

存在感高まる「燃料アンモニア」見えてきた内閣府主導・研究開発の出口

アンモニア混焼実証事業を進めているJERA碧南火力発電所(愛知県碧南市=JERA提供)

政府の2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)宣言もあり、燃料としてのアンモニアの存在感が日本で高まっている。20年3月に「新国際資源戦略」で気候変動問題への対応策として燃料アンモニアの利用拡大が初めて位置付けられ、同年12月に「グリーン成長戦略」で重点分野の一つとして位置付けられた。新しいエネルギー社会の実現に向けて内閣府主導で進めてきた研究開発の出口が見えてきた。(山谷逸平)

14年度から5年間の取り組みとし実施された内閣府の大型支援事業「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第1期。プログラム課題の一つとして「エネルギーキャリア」が取り上げられた。気体のままでは貯蔵や長距離の輸送効率が低い水素を効率的に貯蔵・運搬する方法が当初のテーマだった。

三つのキャリアのうち、アンモニアが着目されたが、最終的にキャリア自体ではなく、アンモニアを燃焼させてエネルギーとして直接利用する技術開発の推進に集中。アンモニアが火力発電の燃料として直接利用できることを明らかにし、窒素酸化物(NOx)の排出は技術開発により抑制可能なことを確認した。燃焼時にCO2を排出しない燃料として、温室効果ガス(GHG)の排出削減への貢献が期待されている。第1期「エネルギーキャリア」のプログラムディレクター(PD)を務めた東京ガスの村木茂アドバイザーは「取り組みを集中させたことで結果的に具体的な成果が現れてきている」と自信を見せる。

社会実装に向けてSIP終了後も企業における実証試験が進む。期待されるのが発電分野での利用だ。例えばJERAとIHIは、JERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市)の発電出力100万キロワットの4号機でアンモニア20%混焼を目指す大規模実証を進めている。24年度に実証を終え、20年代後半に商用運転を開始する計画だ。

舶用ディーゼルエンジンも今後、アンモニアの直接燃焼利用が浸透する可能性が高いことから期待されている分野だ。国際海事機関(IMO)はGHG総排出量を50年にゼロにする目標の議論を始めており、日本や欧米がこれに同調。ゼロエミッション(排ガスゼロ)の燃料として、「貯蔵しやすいアンモニアの可能性が高く、大きな需要になる」(村木アドバイザー)。

国はこれまで技術開発を中心に支援してきた。だが、クリーン燃料アンモニア協会の副会長で代表理事も務める村木氏は「まずはアンモニアの市場を国も一緒になって立ち上げることが必要」と力説する。同協会はSIPの成果を早期に社会実装するために設立された。村木氏は「アンモニアの直接燃焼技術は日本が最も進んでいるが、技術的なハードルは高くない」と話す。その上で、「日本はこれまでもほかの産業で技術開発に資金を投入してきたが、サプライチェーン(供給網)を海外勢に持って行かれた」と、同じ轍を踏むことのないように供給網確立への政策・制度的支援が不可欠だと強調する。

日刊工業新聞 2022年5月30日

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