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草刈り機メーカー・オーレック社長、ヒット製品生み出す糧になった父の存在と多くの苦難

買う立場で製品考え尽くす

草刈り機など農業用機械メーカー、オーレック(福岡県広川町)の今村健二社長。九州が中心だった事業エリアを広げて全国展開を実現し、製品開発では数々のヒットを生み出した。その糧になったのは先代社長である父の隆起氏の存在と多くの苦難だった。

今村社長が経営者としての基礎を築けたと思えるのが大学時代。航空部に入り、キャプテンを務めた。何でも自分たちでやるというのが部の伝統。使っていた中古車の修理もこなした。

隆起氏は、どんなに苦しいことがあってもひるまなかった。悲しんだり悔やんだりしているところを見たことがない。一緒にいたことで健二氏は、最終責任は自分にあるという経営者としての覚悟が培われ、体に染みこんでいるように思える。

隆起氏は健二氏に厳しかった。佐賀県と長崎県の営業を担当していた入社当初、全国展開を進言したが一蹴された。そこで佐賀と長崎を担当したまま、時間をつくってはトラックにデモ機を積んで1人で関東に行った。販売店への飛び込み営業は当初、だれも相手にしてくれない。それでも通い続けて少しずつ売れるようになり、埼玉県に関東営業所を開設して赴任した。

営業所時代は苦労の連続。製品のメンテナンスや不具合にも対応した。不具合は原因や改善方法をまとめて製品開発につなげ、主力製品も生み出した。「どん底の時期に逃げなかったから多くを学べた。逃げていたら宝の山を見失っていた」と振り返る。

無欲の行動が人の心をつかむことも学んだ。農機具の販売店でトラクターを1人で修理している人を思わず手伝ったことがある。作業が終わった後に真剣に話を聞いてくれ、その後に販売を手伝ってくれた。

関東から本社に戻り、各地に営業所を開設するときや製品開発をしようとしても隆起氏はことごとく反対した。健二氏はやる気がみなぎった。父は息子の性格をよく分かっていた。褒めると安心してしまい、たたけば頑張る。父が亡くなったとき古参の社員から、自分をすごく褒めていたと初めて聞いた。

体感を重んじ、社員にどう伝えようかと考えてたどり着いた表現が、百聞は一見にしかずになぞらえた「百見は一感に如かず」。さらに「超顧客志向」を訴える。顧客志向という言葉は今村社長にとって不十分に感じる。その製品を自分が買う立場だったらどう思うか。考え尽くした答えであれば共感してもらえると信じる。(九州中央・片山亮輔)

【略歴】いまむら・たけじ 76年(昭51)明治大工卒、同年大橋農機(現オーレック)入社。84年企画室長、85年常務、88年社長。福岡県出身、69歳。
日刊工業新聞2022年5月24日

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