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セラミックスが空を飛ぶ日

GEが認めたニッポンの素材力 セラミック繊維複合材「CMC」の可能性とは

世界の科学者・技術者のおかげで完成


 「この繊維が完成したのは、CMC開発に取り組む世界中の科学者たちのおかげ」と市川氏。日本カーボンの開発チームは世界の科学者からのフィードバックを得ながら、ケイ素(Si)とカーボン(C)を主とする素材の改良を重ね、ニカロン(化学組成:SiCO)→ハイニカロン(Si-C)→ハイニカロン タイプS(SiC)と変遷させてきた。

 SiCOでは1200度以上で酸素(O2)が分解されて劣化する問題を、酸素を無くしたSi-Cにして回避。しかしSi-Cでも1000度以上で繊維が伸びて変形(クリープ現象)する弱点があったため、ケイ素と炭素の比率を1:1に近づけて結晶成長させたSiCを開発。この「SiC=ハイニカロン タイプS」こそがGEのCMCを完成させた夢の繊維である。その開発は、市川氏のチームメンバーであった武田道夫氏が手掛けた。

 この歴史から“ミスターSiC”との異名を持つ武田氏。「カーボンとケイ素の比率を1:1に極限まで近づけたものの、1000度を超えると酸化が始まることは避けられない。裸ではなくセラミックに埋め込んで使う、CMCとしての成立は、SiC繊維にとって運命的な出会いだった」という。

 当時からCMC開発は世界中の関心の的で、業界では毎年約50本もの論文が発表されていた。毎年1月に米・フロリダで開催されるセラミックス学会のアニュアル・ミーティングでは武田氏も毎年、研究成果を発表、CMC実現に向け世界へ働きかけた。

 当時米国がリストアップした「米国になくて世界にある20の技術」のひとつとして挙げられていた炭化ケイ素繊維。しかし大規模な需要が見つからず、またニカロンの品質を越えることができなかった多くの企業が撤退し、今これを製造できるのは世界に2社しかいない(ともに日本企業)。

 たかだか数年では結果が出ないのが材料研究の常ではあるものの、その誕生から40年。日本カーボンが開発を粘り続けた背景には、新素材の可能性を世界から奪ってはならない、という責務があった。長らくCMC研究の末、GEがセラミックスで空を飛ぶ夢の実現に漕ぎ着くことができたのも、同社のおかげ。太平洋を挟む両社は「必ず実現して世界に大きな価値を届ける」という技術者魂の火を灯し続けてきた。

 GEがCMC製造を本格開始するにあたり、日本カーボンはSiC繊維の量産のためにGEと仏サフラングループと共に合弁会社NGSアドバンストファイバーを設立(筆頭は日本カーボンで50%出資、GEとサフラングループは各25%を出資)。富山県内で製造を手掛け、2016年に稼働を始める新工場ではSiC繊維を本格量産し、米国のGEの工場へと出荷予定。

 また、米国内でもSiC繊維の製造を始める計画で、すでに工場建設の準備が進んでいる。SiCを完成させた張本人、ミスターSiCこと武田氏は2015年春にNGSの社長に就任。日米におけるSiC繊維本格量産を指揮する重要人物である。

 そしてCMCは今後、発電用ガスタービンなど様々な分野で応用され重工業分野での効率性向上に大きく寄与することになるだろう。日本が誇る素材技術が、世界を大きく変えようとしている。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
SiC繊維を手掛けられるのは世界で日本カーボンと宇部興産の2社。GEは日本カーボンを組んだ。 一方の宇部興産は「チラノ繊維」の名で、エンジン部品を手掛けるIHIと組んだ。

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