慣例打破の内部統制、産総研が挑む「組織の多様性」拡大
産業技術総合研究所は外部法人の設立を視野に稼ぐ力を強化する。外部法人は報酬などの制度を柔軟に設計しやすく、高度人材を迎える器になる。これは産総研本体の制度改革と一体で進められる。
「採用面接に臨むと7―8割の人材が産学連携をやりたくて産総研を志望してくれている。だが組織として応え切れていない」と片岡隆一理事はため息を吐く。産学連携を担うイノベーション推進本部に配置できる総合職は全体の7%ほど。人事のローテーションで総務や環境安全、広報を回り、産総研でのキャリアの中で10分の1程度しか志望動機に携われていない。
片岡理事は「配属を転々とすれば人材が育つわけでもない。多様なキャリアパスを示していかないといけない」と説明する。各部署で専門性を磨き、労働市場で競争力のある人材を育てたい考えだ。
そのためにゼロベースで制度の見直しを進めている。例えば総合職ポストの中には貢献の大きい研究者を処遇するためのポストもある。2001年に産総研が設立され、総合職として採用された人材は40代の半ばになる。キャリアが成熟してきたころに土地勘のない人が上司になる。それでもモチベーションを維持できるか、難しい問題があった。
片岡理事は「産総研プロパーの総合職から理事や経営幹部を出すこともモチベーションを維持するためには重要」と指摘する。自身は経済産業省の出身の理事だ。だからこそできる改革がある。
本省では人事課と会計課が担う業務を、産総研では2人の理事で管轄する。「僕にとっては得がたい経験。産総研の職員に勢いは通じない。しっかりとした論理とデータを示さなければ納得されない」(片岡理事)。キャリアとポストに、どこまでメスを入れるか腐心する。
確実なことは組織の多様性が増すことだ。総合職でありながら専門性を磨くことが奨励される。外部法人への出向など、若手の修行の場も用意される。民間企業の最高技術責任者(CTO)クラスの人材をスカウトして新組織を立ち上げる。このメンバーはお役所仕事とは無縁の刺激だらけの経験を積める。片岡理事は「1年で形を作り、2―3年で軌道に乗せる」という。挑戦することでキャリアが開かれる。