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最大の経営改革に挑む産総研、“仕掛ける”組織に変貌なるか

連載・変わる産総研#01

縮小均衡から成長路線

産業技術総合研究所が2001年の設立以来、最大の経営改革に挑む。研究開発を通して日本のイノベーションを支える組織から、自らイノベーションを仕掛ける組織に生まれ変わるためだ。旗振り役はAGC出身の石村和彦理事長。自ら経営方針を定めて行動計画を作り実行する。国立研究開発法人の理事長は前任者の期間中に策定した中長期計画を遂行するケースが多かった。自らトップセールスを仕掛けイノベーションのパートナーを探す。その行方を追う。

2月下旬、産総研の理事長室。人事制度の検討を終えた石村理事長は、運営統括責任者の片岡隆一理事に「腹は決まったか?」と問いかけた。「覚悟を決めました」と片岡理事。片岡理事は経済産業省の出身。運営統括責任者のポストは1期2年交代が慣例だが、慣例を壊し4年間の任期が実質内定した。

背景には石村理事長から経産省への強い要望がある。産総研は経営改革のまっただ中。運営統括責任者はトップの命を受けて研究所の運営業務を取りまとめる。組織を大きく変えるには運営統括責任者がレームダック(死に体)になることは絶対に許されない。2年の任期では、交代が迫る2年目に空回りする懸念があった。

国立研究開発法人の事業計画は理事長の選任と関係のないところで決まることが多い。産総研の場合、20年3月末に中長期計画が認可され、同年4月に石村理事長が就任した。事業計画は1年以上かけて策定する。このため理事長に期待されるのは計画立案よりもトップセールスの力だった。大手企業相手に大型の共同研究をまとめ、社会実装に向けた道筋を付ける。

トップセールはもちろんだが、石村理事長は産総研のビジョンを作らせ、策定済みの中長期計画を越える長期展望と経営方針を示した。実行力を確かなものにするために執行役員制を導入。経営と執行を分離した。石村理事長のアプローチは「これまでの20年間の変化より大きいと言われている」と振り返る。

大きな改革には違いないが、実際はようやく民間企業の経営に近づいたとも言える。

石村理事長をはじめ幹部に課せられたのは産総研を縮小均衡から成長路線へ立て直すことだ。片岡理事は「産総研の機能を増やし、強化していく改革は縮小均衡では難しい。“足し算”の経営である必要がある」と主張する。国研が民間資金を獲得し、日本の研究基盤を支える柱を増やす覚悟だ。

日刊工業新聞2022年3月28日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
産総研がイノベーションのために研究する研究所からイノベーションを実行する組織になるために経営改革が進んでいます。管轄省庁から出向してくる理事を慣例より5期若返らせて、2年交代のレームダックなんて許さずに、自分の任期中は組織改革に専念させる。石村理事長の豪腕ぷりを感じます。最初の疑問は「なぜ研究者に事業化を求めるのか」というものでした。産業界では中央研究所を解体して事業部門に移して事業の一部としての研究開発を押し進めました。功罪両面あって、これを機に大学に移った先生たちからは企業の基礎となる研究力が失われたという声も上がります。産業界の研究者をビジネスの前線に送り込んでも成功率は高くないのに、学術界の研究者を送り込んでも厳しいです。それなら事業化のプロを置いて社会実装を本気でやる。これがうまくいったら研究所でなく革新所になるのかもしれません。

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