宇宙用部品の放射線対策、研究の難しさ

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耐放射線強化回路を搭載した16nm世代 FinFET 半導体試作チップ(JAXA提供)

スマートフォン、時計、パソコンといった電子機器を水没させると故障して動かなくなってしまう。これは、このような電子機器を構成する電子部品が故障することに起因している。同じように宇宙でも、ロケットや人工衛星のような宇宙機を構成する電子部品が故障すると、宇宙機の動作に影響を及ぼすことがある。

宇宙用の電子部品の大敵とされているものの一つが放射線である。放射線は高いエネルギーを持った粒子や光子の総称で、放射線が電子部品に入射することで、電子部品の内部に過剰なエネルギーが付与され、結果として異常を引き起こす。

異常の種類としては、メモリー情報の反転といった一時的なエラーから、焼損のような恒久的な故障まで、その影響はさまざまなものが報告されており、宇宙用部品の放射線対策は重要な課題となっている。

対策手法としては、構造や製造条件の最適化による対策、新しい材料の導入による対策、回路およびレイアウトの改良による対策などが研究されている。しかしながら、何にでも通じる万能な対策は存在しておらず、日進月歩で成長を続ける電子部品それぞれに適した対策を講じる必要がある。また、対策を講じることは、性能とのトレードオフ関係となる点もこの研究の難しさとなっている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、宇宙空間において限られたエネルギー資源を効率良く利用するため、電力の供給や制御が可能なパワーデバイスや、電力の供給がなくても記憶を保持することができる不揮発性デバイスの研究開発を行っているほか、軌道上での高速演算・通信を実現するための3次元構造トランジスタ(FinFET)の耐放射線性を強化する技術の研究にも取り組んでいる。

これまでにJAXAでは、加速器を利用した高エネルギー粒子の照射実験を行い、電子部品の放射線の影響の受けやすさや、機器の破壊に至るメカニズムを把握してきた。現在では得られた知見を集約したプロトタイプの集積回路の試作を進めているところである。

この研究分野は、近年の電気自動車や人工知能(AI)技術の進歩により、地上用の電子部品にも裾野が広がってきている。将来的には宇宙だけでなく、地上用としても成果が活用されることを期待したい。

研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員 坂本敬太

12年にJAXA入社後、宇宙用デジタル大規模集積回路(LSI)の耐放射線設計技術の研究開発に取り組んでいる。

日刊工業新聞2022年3月21日

キーワード
宇宙 JAXA 放射線

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