創薬にゲームチェンジ!パンデミックを防ぐ次世代ワクチン開発
人工知能(AI)創薬で感染症のパンデミック(世界的大流行)に挑む―。NECとノルウェー子会社のNECオンコイミュニティ(オスロ市)は、国際基金「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」と協力し、将来のパンデミック候補と目される100種類以上の「ベータコロナウイルス属」に対応する次世代ワクチンの開発を始める。遠藤信博NEC会長は「AI活用でゲームチェンジを目指す」と力を込める。(編集委員・斉藤実)
「次のパンデミックが起きた際に、100日以内にワクチンを作る」。CEPIが掲げるこの使命を実現するパートナーとして、日本企業で初めてNECが公募で選ばれ、研究開発費として約5億9000万円の拠出を受ける。
NECはオンコイミュニティを通じて、欧州ワクチンイニシアチブ(EVI)やオスロ大学病院などが参加する研究コンソーシアムを主導し、今後2年間で次世代のmRNAワクチンの設計を行う。
目指すのは、広範なベータコロナウイルス属に対応する汎用ワクチン。「SARS―CoV―2」や「MERS―CoV」などを含む100種類以上の多様なベータコロナウイルス属のうち、パンデミックがどこから来ても対応可能とする。
現在は「スパイクたんぱく質」を対象としたmRNAワクチンがあるものの、抗体の効き目は約6カ月。加えてスパイクに変異が起きると、抗体効果が弱まるため、変異株に適したワクチン開発のあり方が問われている。
これに対して、次世代ワクチンは「抗体×T細胞」。ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ抗体と、感染した細胞を攻撃するT細胞の組み合わせにより、体内に侵入したコロナウイルスを抗体で不活性化し、ウイルスに感染した細胞をT細胞が攻撃する“2段構え”となる。
なぜNECなのか、について北村哲AI創薬統括部長は「当社はがんワクチンの研究でT細胞を誘導し、がん化した細胞を攻撃する技術を持っている。だからこそ2段構えができる」と胸を張る。次世代ワクチンの目標は「ウイルス変異に強く、長期間ワクチン効果が持続する」こと。さらに人種の差異を克服して「人口カバー率を最大化する」など壮大な計画に挑む。
今後、入手可能なベータコロナウイルス属の全遺伝子データを解析し、「すべてに共通して存在し、高い免疫反応があるウイルス抗原を見つけ出す」(北村部長)。膨大なデータから最適な組み合わせを人手で発見するのは困難であり、そこではNECの独自AIと数理最適化技術がモノをいう。
CEPI科学アドバイザリーである石井健東京大学医科学研究所教授は「NECが2020年に新型コロナウイルスワクチンのブループリント(概要設計)を突如発表したのに驚いた」と回顧。100日でワクチンを作るのは高い目標だが「AIで突破し、新しいイノベーションを起こすことを期待している」と語った。NECはそうした期待を現実に変えていけるか、注目が集まる。