航空機運航を効率かつ安全にする「スマートフライト」研究の世界
コロナ禍以前、世界の航空交通量は年率4―5%で増加しており、15年ごとに倍増する勢いだった。現在は新型コロナウイルスの影響により航空需要は大幅に減少しているが、国際航空運送協会(IATA)はコロナ収束後には従来の伸び率を回復すると予測している。航空交通量の増大は、空港や空域の処理容量の逼迫(ひっぱく)、二酸化炭素(CO2)排出や騒音などの環境負荷の増大、航空事故数の増加などにつながるため、各方面での対策が求められる。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、地上と機上の情報を統合処理し、パイロットや管制官の状況監視・選択肢生成といったタスクを自動化・最適化することにより、増大した航空交通量のもとでも航空機の運航の効率性・安全性を損なわないことを目指した「スマートフライト(高度判断支援)技術の研究」を2018年に開始した。
本研究では、パイロットを支援する技術、管制を支援する技術など、いくつかの研究を実施してきた。
本研究で試作した運航判断支援ソフトウエアは、電子フライトバッグ(Electronic Flight Bag=EFB)として活用が期待されるタブレット端末上で動作するもので、現在の飛行状況に加え最新の気象情報や周辺を飛ぶ航空機の情報を加味して最適な飛行経路をパイロットに提案するものであり、燃費・CO2の削減が期待される。
管制機関が行う航空交通管理向けに提案している適応型時間管理アルゴリズムは、現在は画一的に運用されている時間管理システムに対し、その日の航空交通量に応じてパラメーターを変化させることで、待機時間の削減や定時性の向上などをもたらすものである。
また、近年の航空機は全地球測位システム(GPS)などを利用した衛星航法への依存が高まっているが、その衛星信号が微弱であるがゆえの脆弱性に対抗する技術として複数のアンテナで受信した信号を合成する耐障害高信頼性航法技術を提案しており、衛星航法に対する妨害波や欺瞞波への耐性を高める効果により運航の安全性の向上が期待される。
コロナ収束後、航空需要が順調に回復した場合に予想される容量逼迫、環境負荷増大、事故数増加などに対し、これらの技術が将来実際に社会で活用されることで解決に寄与することを期待し、さらに研究開発を進めていきたい。
航空技術部門 航空安全イノベーションハブ スマートフライト技術チーム長 藤原健 99年航空宇宙技術研究所(NAL)入所。07―08年米スタンフォード大客員研究員。21年より現職。GPSと慣性センサーの複合航法システムの研究に従事。