ニュースイッチ

米中対立、ウクライナ情勢…地政学リスク増大で高まるJBICの役割

国際協力銀行(JBIC)が日本政策金融公庫の国際部門から分離、新たに発足して1日に10年を迎えた。日本企業の海外事業展開支援や資源確保、地球環境保全などの業務に対し、民間金融機関と連携し、積極的なリスクマネーを供給するなど、日本の産業の国際競争力の強化に取り組んできた。米中対立の激化やロシアによるウクライナへの侵攻など地政学リスクが高まる中、JBICの果たす役割は増している。(編集委員・川瀬治)

前田匡史JBIC総裁は「世界が分断される中で、日米豪の連携にインドを加えた『クアッド』で対応していく必要がある」と力を込める。JBICは2018年11月に日本と米国、豪州の3機関間パートナーシップを結成。協調プロジェクトの第1号案件として、21年1月にパラオ海底ケーブル支線プロジェクトを承諾した。パプアニューギニアやインドネシアに合同ミッションを派遣するなど、インド太平洋地域での協調案件の形成に乗り出している。

日本政府の2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)宣言後、官民一体となって脱炭素の動きが加速している。前田総裁は「日本の産業競争力を失わない形で脱炭素を進めていくことが重要だ」と語る。脱炭素でカギを握るのが日本企業の持つ最先端の水素技術だ。JBICは「水素源」から「水素キャリア・輸送」「利活用」までをつなぐ国際的な水素サプライチェーン(供給網)の構築の支援に力を入れる。

JBICは21年10月にESG(環境・社会・企業統治)に関する指針を策定した。50年までに投融資先のカーボンニュートラルを目標に打ち出したほか、JBIC自らの事業活動による温室効果ガス排出量は30年までに実質ゼロを目指す。22年1月に政府保証付きの初のグリーンボンド(環境債)を5億ドル(約600億円)発行。日本ではグリーン国債を発行していないことから、国内外の投資家から関心や需要が強い。

米国と中国の対立やウクライナ情勢など地政学リスクが増している。JBICには金融面での支援とともに、各国の政府高官らとの人的コンタクトを生かし、日本企業への情報提供が期待される。

気候変動対策やグローバル・サプライチェーンの強靱(きょうじん)化など、地球規模の課題を抱える日本企業が少なくない。「海図なき世界情勢の中で日本の力で未来を築く『羅針盤』の役割を果たしていきたい」と前田総裁。次の10年を見据え、JBICの新たな挑戦が始まる。

(左から)ウィリアム・ハガティ駐日米国大使(18年11月当時)、前田匡史JBIC総裁、リチャード・コート駐日豪州大使(同)

日刊工業新聞 2022年4月1日

編集部のおすすめ