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宇宙開発の成果最大化へ、JAXAが強化する「フロントローティング」の世界

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙開発は、数多くのミッションから成り立っている。そして、それぞれのミッションは、大規模・複雑な宇宙システムの開発を中心に構成されたプロジェクトにより達成される。ミッション成果の最大化とプロジェクト活動の確実な遂行のためには、初期的な検討(フロントローディング)の充実・強化が重要になる。

我々のチームは、フロントローディングの充実・強化のために、二つの活動を行っている。一つは初期検討成果創出のために複数のミッション初期検討、もう一つは初期検討プロセスの改善のためにモデルベース・システムズエンジニアリング(MBSE)の適用研究である。

ミッション初期検討結果の例(宇宙機コンフィギュレーション=JAXA提供)

ミッション初期検討では、我々のチームはこれまで40件以上の検討を行ってきた。例えば、革新的衛星技術実証プログラムの小型実証衛星では、実証テーマの実現性とシステム成立性の検討から、これに基づくミッション定義を経て、開発するシステムの定義までを担い、プロジェクトに移行させた。米航空宇宙局(NASA)などとの共同ミッション「Mars Ice Mapper」では、曖昧だった要求を解きほぐし、システム実現に必要な要求として明確化し、火星探査機の姿を複数案明らかにすることで、トレードオフの選択肢を示し、意思決定に貢献した。

システムズエンジニアリング(SE)は、ニーズや制約を要求・設計へと段階的・階層的に変換・分解し、要素の製作を経て、これらを段階的・階層的に統合し運用につなげることで、システム実現を可能にする手法である。航空宇宙では標準的な業務プロセスとして確立され適用されている。

これまで文書ベースで行われてきたSEをデジタル化し、システムに関する全ての情報を構造化したモデルを用いて行うのがMBSEである。今日のデジタル変革(DX)の潮流の中、我々は、宇宙ミッションのSEプロセス改善のために、実ミッションを対象として段階的にMBSEの適用を進めている。

小型実証衛星シリーズでは、比較的シンプルな小型衛星の短期間・繰り返し開発という特徴を生かして、2号機では初期段階のJAXA側のSEプロセスの一部にMBSEを事後適用し、続く3号機では適用範囲を拡大し、国内では初めてJAXAと衛星システム担当企業の両方のSEプロセスにMBSEを部分適用している。さらに後続号機でのMBSE全面適用を目指してモデル化を進めており、これらの活動を通して、将来のJAXAミッションのデジタル開発へとつなげようと考えている。

◇研究開発部門 システム技術ユニット長・チーフエンジニア 岩田隆敬 米スタンフォード大Ph.D.(博士)。入社後、ALOSプロジェクトチームにて、高精度姿勢軌道制御系などの開発・運用を担当。その後、誘導・制御グループ長として姿勢軌道制御系の開発や研究を、チーフエンジニア室長としてJAXAのPM/SEの取りまとめや独立評価を指揮。東京工業大学特定教授兼務。
日刊工業新聞2022年1月31日

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