人工衛星から大容量データを高効率伝送、JAXA研究の今

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衛星MIMO技術実証用通信装置(LEOMI-TRX)開発モデル外観

人工衛星は、降雨や地表面の様子、温室効果ガスの濃度などのさまざまな情報を地上にいる我々に教えてくれる。地球観測衛星が取得する画像情報からは土砂崩れなどの自然災害の被災状況を直ちに広域に把握することも可能だ。

地表面近くの状態を精細に調べるには地球に程近いところを周回する低軌道衛星を使うことが効果的だが、地上と通信できる時間は短く、近年では広域に観測を行うためにデータ量が飛躍的に大きくなっているために、全ての情報を手にすることがだんだんと難しくなっている。そのため人工衛星から地上に大容量のデータを迅速に伝送する手段の実現が必要とされている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では2016年ごろより、大容量データを高効率に伝送可能な通信システムの研究に取り組んでいる。通信路の状況を予測し、それに合わせて通信方式を変化させて通信を行う可変符号化変調(VCM=Variable Coding and Modulation)技術を核とした伝送システムを設計し、試作評価により10ギガbps(ギガは10億)級の伝送システムを低消費電力に実現できるめどを得た。地上にある受信機が通信方式を自動的に識別する仕組みを導入することで衛星の運用を行う人が細かな通信方式を意識せずに済むため、将来的な省人化にも備えられるシステムだ。

また、送信機と受信機の双方で複数のアンテナを使うことにより通信容量の増加が期待できるMIMO(Multiple―Input Multiple―Output)技術の研究開発も進めている。これまで衛星―地上間通信へのMIMO技術の適用は難しいとされてきたが、JAXAは低軌道衛星でもMIMO技術が利用できる可能性を解析により見いだした。

民間企業とも協力し、VCM技術と衛星MIMO技術はそれぞれ革新的衛星技術実証2号機(21年11月打ち上げ)、同3号機(22年度打ち上げ予定)における実証で技術成立性や改良点を調べ、次世代システムへつなげる計画だ。

近年、世界中で始まった低軌道衛星を使った大規模通信ネットワークや観測ネットワークは、私たちの日常を大きく変える新たな社会インフラへと発展する可能性がある。本研究は、衛星通信サービス全般の性能向上に大きく貢献できるものだ。

JAXAの技術が、世界で取り組む課題の解決に貢献できることを目指して研究開発に励んでいる。

研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員 中台光洋
12年東大院工学系研究科修士課程修了。同年入社。以来、通信用電力増幅器やコマンド受信機などの機器開発、大容量伝送システムの研究開発に従事。地球観測や探査ミッションへの技術支援も行っている。

日刊工業新聞2021年12月6日

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